米金利見通し巡るFRBと市場のギャップ鮮明に!ドル高弱まる可能性も

 日米欧の中央銀行の政策決定会合が集中する「中銀ウイーク」が終わり、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は13、14日のFOMC(連邦公開市場委員会)で市場の予想通り利上げを見送り、11会合ぶりに据え置きを決定、政策金利を5.00~5.25%に維持しました。一方で、2023年末の政策金利の見通しを5.625%(中央値)とし、前回(今年3月時点)の5.125%(中央値)から0.50%引き上げ、年内にあと2回の利上げを示唆するタカ派見通しとなりました。

 そして、日本銀行は15、16日の金融政策決定会合で、予想通り大規模金融緩和の現状維持となりました。これらの決定を受けてドル買い、円売りが進み、ドル/円は1ドル=142円台に乗せ、7カ月ぶりの円安水準となりました。

 このように日米金融政策の方向性の違いが確認されたことによって、外国為替市場ではドル買い、円売りと素直に反応しました。しかし、FRBの金利見通しと市場の先行き期待とはギャップがある状況となっています。

 FRBが年内のFOMCで2回利上げする見通しになっているのに対して、市場の予想は年1回どまりとなっており、FRBの2回の利上げ見通しを疑問視する見方となっているようです。

 このようなギャップがある状況では、早晩、ドル/円に対するドル高圧力は弱まってくることが予想されます。今回の円安は、FRBのタカ派的金利見通しに対する日銀の金融緩和維持に焦点を当てた円安です。

 そのため、米金利見通しに関してFRBと市場とのギャップがある中で円安が持続するためには、次回のFOMCや日銀会合で再び日米金融政策の異なる姿勢を確認する必要があると思われます。その姿勢に変化がないのか確認するまでは動きづらいことが予想されます。

FRBの「年内あと2回利上げ」とは?

 年内にあと2回の利上げシナリオとはどのようなものでしょうか。FOMCは年内あと4回(7、9、10~11、12月)あります。その中で7、9月の利上げとなるのでしょうか。あるいは1回ずつスキップし、7月利上げ、9月見送り、10~11月利上げのシナリオとなるのでしょうか。

 FRBのパウエル議長は6月14日のFOMC後の記者会見で、次回7月会合はデータ次第で判断が変わる「ライブ」になるだろうと指摘しています。つまり、7月はデータ次第で利上げ見送りもあるかもしれないということです。7月も利上げ見送りとなれば、9月、10~11月、12月のFOMCのいずれかで2回の利上げとなります。

 今年の第4四半期(10~12月)には米景気の後退がより鮮明になるとの見方がある中で、利上げ時期が後倒しになればなるほど、年2回の利上げシナリオはなかなか描き難いかもしれません。

 6月21、22日にはパウエル議長の議会証言が予定されています。パウエル議長は21日の下院金融委員会、22日の上院銀行委員会の公聴会にそれぞれ臨み、議員の質問に答えます。7月以降の利上げ姿勢について同じような認識を示すのかどうか、また、年内2回の利上げ見通しについてどのような発言をするのか関心をもって見守りたいです。

クロス円の動向も注目!

 今回の円安は、ユーロ/円、ポンド/円などのクロス円(米ドル以外の外国通貨と円の組み合わせ通貨ペア)の円安進行に支えられたところも大きいため、これらクロス円の動向にも注目する必要があります。ECB(欧州中央銀行)は6月15日の理事会で利上げを決定し、ユーロ/円は1ユーロ=155円台を付け、15年ぶりの円安水準となりました。ECBのラガルド総裁は7月の理事会でも利上げの可能性を示唆しています。

 22日のBOE(英中央銀行イングランド銀行)のMPC(金融政策委員会)の結果にも注意したいと思います。賃金、インフレの高止まりから今後も欧米よりもタカ派姿勢が続く可能性が大きいため、MPCの結果後ポンド/円の円安によってドル/円を底堅くすることも予想されます。ポンド/円も2015年12月以来の1ポンド=180円台の円安水準となっています。

 利上げ後、1ポンド=190円を目指すのかどうか、あるいは材料出尽くしや利上げによる景気後退懸念からいったん利食いの調整が入るのかどうか注目です。これらクロス円の円安が続く限り、ドル/円の円高にはブレーキがかかる点には留意する必要がありそうです。

 22日のMPC前の21日には、英5月CPI(消費者物価指数)が発表されるため注目したいと思います。

植田総裁「物価高下がり方やや遅い」、政策修正に踏み込むシナリオも

 日銀は今回6月の会合で現状維持の決定だったため、市場参加者は安心して円売りを続けていますが、植田和男総裁の物価に対する認識が変化したことには留意しておく必要があります。

 植田総裁は16日の会合後の記者会見で、物価高について「下がり方が思っていたよりもやや遅い」と述べ、従来見通しと異なる動きになっていることを認めています。しかし、市場はほとんど反応しませんでした。日銀の物価に対する認識の変化によって、7月の展望リポートでの物価見通しがどの程度上方修正されるのか注目です。

 石油や天然ガスの価格下落によって輸入物価が下落する一方、国内では食料品の根強い値上げによって物価は下がりづらくなってきている状況となっています。

 植田総裁が「下がり方が遅い」とさらに認識を強く持つようになれば、日銀が政策変更に一気に動くシナリオも想定されるため、「不動の日銀」とは思わない方が良さそうです。日本の5月CPIは23日に発表予定です。

 また、植田総裁は長期金利を日銀が国債を買って低く抑え込む政策「YCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)」の見直しに関して「ある程度、サプライズとなることもやむを得ない」と発言しました。しかし、この発言に対してもほとんどマーケットは反応していない状況でした。

 見直し時期についての言及がなかったことから反応が鈍かったのかもしれませんが、かなり思い切った発言だったという印象を持ったと同時に市場があまりにも反応しなかったことにも意外感がありました。

くすぶる介入警戒感とまだ余裕の財務省

 ドルが1ドル=142円を超えてきたことから市場は日本の通貨当局による為替介入を警戒し始めてきています。鈴木俊一財務相も142円に乗せた円安水準を踏まえて、「日々、為替の動向は注視している」と発言していますが、トーンはまだ強くありません。

 昨年9月の円買いドル売りの介入実施水準の1ドル=145円超や10月の150円超の水準からはまだ開きがあるからかもしれません。また、日銀が今月12日に公表した5月の輸入物価指数(円ベース)が前年同月比で5.4%低下していることも影響しているのかもしれません。2カ月連続のマイナスで、資源価格の上昇が一服して「石油・石炭・天然ガス」が下落したことなどが影響しているとのことです。

 物価上昇の一因である輸入物価が低下していることから、昨年9月、10月の状況と比べて、財務省も時間的余裕を持って為替動向を観察していくことができます。