均等インフレは株にプラス

 ここで、理論経済学からみたインフレの考察についてお話しします。理論経済学では、まず「全てのモノやサービスが均等に値上がりする」インフレを想定します。仮にインフレ率が10%として、全てのモノやサービスが10%値上がるとしましょう。すると、企業の利益は10%増加して、株価は理論上10%上昇します。なぜでしょう。

 企業の売上高は10%増加します。10%の値上げが通るからです。一方、原材料費も人件費も光熱費も交通費もあらゆる費用が全て10%増加します。すると、売上高から原価や販売管理費、税金などを差し引いた利益も10%増加します。1株当たり利益が10%増加しますのでPER(株価収益率)での評価が変わらないとして、株価は理論上10%上昇することになります。

 このように完全な均等インフレが起こると、経済への実質的な影響は限りなくゼロに近くなります。労働者は賃金が10%増えるが、物価が10%上がるので購買力は変わりません。株に投資している人は、株価が10%上昇するが、物価が10%上がるのでやはり購買力は変わりません。

 それでは、完全均等インフレ下では、経済への影響はゼロなのでしょうか? そんなことはありません。すごく損をする人と、得をする人が出ます。

 損をするのは、現金・預金を保有している人です。利子がほとんどつかない中で、物価が10%上昇すると、預金の価値は実質10%目減りします。それでは、誰が得をするのでしょう? 得をするのは、借金をしている人です。借金の価値が実質10%目減りするからです。日本で最大の借金主は「日本国」です。普通国債の残高だけでも2023年3月末で1,043兆円あります。

 つまり、インフレで一番得をするのは「日本国」です。均等インフレで企業の利益や個人の所得が10%増えると、法人税や所得税も10%増加するからです。それでも借金の残高は変わらないので、実質的に借金の価値が10%目減りすることとなります。

 このように、インフレによって家計が保有する現預金を目減りさせると同時に、国が抱える借金の価値を目減りさせることを、「インフレーション・タックス(インフレ税)」といいます。家計が保有する現預金から10%の税金を取ったのと同じ効果が、実質的に得られるからです。巨額の借金を積み上げた国では、インフレーション・タックスが起こりやすくなります。

 コロナ禍の2020年・2021年、世界各国はこぞって財政の大盤ぶるまいで景気たて直しをはかりました。その効果で、世界各国の政府債務は急増する一方、個人が保有する現預金も大きく増加しました。その行き過ぎを是正するために、インフレが起こり、インフレーションタックスによってふくらんだ個人預金と政府債務を目減りさせていると見ることもできます。