信用取引が株価に与える影響は想像以上に大きい

 前回のコラム「株価が動く仕組み:需給に大きく影響する『信用取引』とは」で、株価が動く要因は業績ではなく需給であること、そこには個人投資家が行う信用取引が大きく影響を与えていることをお伝えしました。

 実際、信用取引が株価に与える影響は想像以上に大きいものです。業績がそれほど悪くないのに株価が全然上がらないなあ、と思ったら信用買い残が積みあがっていたり、逆に業績が全くパッとしないのになぜか株価は右肩上がりに推移していると思ったら信用売り残が高水準であったり、というケースは非常に多く見かけます。

 ですから、まずは個人投資家の信用取引の実態をしっかり把握し、それを銘柄選びの一つのポイントとして活用することがとても有効です。

 そのためにチェックしたいのが「信用買い残」と「信用売り残」です。

 信用買い残は、信用買いを行ってまだ決済が終わっていない残高で、信用売り残は信用売り(空売り)を行ってまだ決済が終わっていない残高です。

 信用取引は通常6カ月以内に決済が必要なため、信用買い残が多いほど6カ月以内の売り需要が生じて株価が上がりにくくなります。逆に信用売り残が多いほど、6カ月以内の買い需要が生じるので株価が上昇しやすくなります。

 この特性を踏まえ、信用買い残・売り残を銘柄選びに活用していくのです。

信用買い残の注目ポイント(1)日々の売買高との比較

 では、具体的にどのような点に注目するかを見ていきましょう。まず注目すべきポイントは、信用買い残の残高そのものです。

 先に説明した通り、信用買い残は向こう6カ月以内の売り需要を表していますが、その売り需要が、日々の取引で十分に吸収できるだけの水準なのかどうかがポイントです。

 決して、信用買い残の残高そのものが多いかどうかではなく、日々の売買高と比べてどのくらい多いかで判断します。

 例えばある銘柄の信用買い残が1,000万株だとしましょう。1,000万株の信用買い残という数字だけ見れば、かなり大きなものです。

 でも、日々の売買高が2,000万株以上あるとしたら、1,000万株の信用買い残から向こう6カ月に発生する決済売りは十分に吸収できるといえます。

 では、1,000万株の信用買い残に対し、日々の売買高が100万株しかなければどうでしょうか。信用買い残が売買高の10倍に上るとなれば、かなりネガティブなインパクトを与えることになります。向こう6カ月間の信用買い残から生じる決済売りが、株価上昇を抑える重しになってしまうでしょう。

 日々の売買高に対してどのくらいなら問題なく、どのくらいを超えるとネガティブかという明確な基準はありませんが、大きければ大きいほどネガティブとなります。

 あくまで筆者の感覚ですが、日々の売買高の1倍程度の信用買い残であれば特段問題にはならないように思います。逆に、信用買い残が日々の売買高の10倍くらいに膨れ上がっている場合は、かなり株価の上昇は抑制されるように感じます。

信用買い残の注目ポイント(2)過去からの推移

 信用買い残について、もう一つ見るべきポイントがあります。それは、信用買い残の過去からの推移です。

 もし信用買い残が高水準であっても、過去から比べてみるとかなり減少しているのであればポジティブな評価となります。向こう6カ月以内の決済売りという、株価上昇に対する重しが軽くなっているからです。

 逆に、信用買い残が過去に比べて増加傾向にある場合は、向こう6カ月以内の決済売りがより多く膨らみ続けていることになるため、株価にとってはネガティブな要因となります。

 非常に多く見受けられるのが、株価が下落し、それとともに信用買い残が増え続けているというケースです。これは、個人投資家が信用取引を用いて逆張りでナンピン買いを実行しているという状況です。

「株価が下がった=割安だ!」という思考で株を買うこと自体は良いとしても、それを信用取引で行うと、将来の売り需要がどんどんたまっていき、より株価が上昇しにくくなります。信用取引で逆張り、ナンピン買いを行うと、株価が上昇しにくくなり、逆に自分の首を絞めてしまうことにつながりますので十分に気をつけましょう。

信用売り残についても見るべきポイントはほぼ同じ

 信用売り残についても見るべきポイントはほぼ同じですが、信用売り残が少ないからといって株価に与える影響がネガティブとなることはありません。逆に信用売り残が多く、かつ信用買い残を大きく上回るほど、向こう6カ月以内の買い戻しの需要が増えていくので、株価は上昇しやすくなります。

 最も株価が上昇しやすいケースは、株価上昇に伴い信用売り残も大きく増加し、信用買い残よりも多くなっているという状況です。この状況を「売り長(うりなが)」と呼んだりします。

 先に説明した、株価下落に伴い信用買い残が増加しているケースの逆で、個人投資家がナンピン買いならぬ「ナンピン空売り」を逆張りで実行している状況です。

 彼らの頭の中では、「対して業績もよくないのに株価がこんなに上がるのはおかしい! そのうち下がるはずだ」として株価が上昇するごとに空売りを積み上げていっているのですが、その行為が逆にさらなる株価上昇(「踏み上げ」と呼びます)の要因となってしまうのです。

 筆者は業績がそれほどパッとしなくても、株価が上昇トレンドにあり、かつ信用売り残が増加傾向にあり、かつ信用買い残を上回っているような銘柄は結構買うことが多いです。

 こうした銘柄をみると、「業績だけでは決して株は語れないなあ」としみじみと実感します。

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