今週の米国市況、米物流大手フェデックスの決算を要チェック

 以上のように、先週の日米の株式市場の様子をまとめると、週末の大幅下落は共通で、それまでの動きは「好調な日本株と軟調な米国株」といった具合に、温度差が感じられる場面が目立っていたことになります。

 そのため、今後の相場展開を見据えるにあたり、「週を通じて軟調だった米国株の背景」と、「週末まで好調だった日本株の買い材料」について整理する必要がありそうです。

 まずは、先週の米国株下落の背景についてですが、株価下落のきっかけとなった要因は二つあります。

 一つ目が7日(火)に米上院銀行委員会でパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が行った議会証言の内容が予想していたよりもタカ派だったと受け止められ、3月21~22日に開催予定のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ幅拡大の警戒感が再浮上したことです。

 そして、二つ目が、週末にかけて米金融機関の銀行事業に対する不安が高まる報道が相次いだことです。

 前者のパウエル議長の発言については、10日(金)の米2月雇用統計をはじめ、今週14日(火)の米2月CPI(消費者物価指数)や、15日(水)の米2月小売売上高といった、注目の経済指標の公表前というタイミングだったため、「経済データ次第で利上げ幅の再拡大もあり得る」と発言するしかなく、仕方のない面がありました。

 さらに、「景況感とインフレの動向で金融政策への思惑が働く」という相場展開は、これまでにも幾度も繰り返されてきたことなので、発言自体が悪材料として尾を引く可能性は低いと思われます。

 その一方で、後者にあたる金融機関に対する信用不安の兆しが、新たな相場材料として意識され始めたことについては注意が必要かもしれません。

 この点についてもう少し詳しく見ていくと、米金融持ち株会社のシルバーゲート・キャピタル(SI)が、傘下の銀行事業を清算する方針を8日(水)に発表し、続く10日(金)には、米シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻し、事業を停止したと報じられたことが、市場に不安ムードをもたらしました。

 シルバーゲート・キャピタルは仮想通貨関連企業の預金を積極的に受け入れ、仮想通貨の投資家向けにドル決済システムを提供していたことで知られていましたが、昨年11月の暗号資産(仮想通貨)交換業のFTXトレーディングが経営破綻したことを契機に、資金繰りが苦しくなっていました。

 シリコンバレー銀行については、ベンチャー企業やベンチャーキャピタル(VC)への融資を積極的に手掛けていましたが、FRBの急ピッチな金融引き締めによって、資金調達コストが上昇したほか、IPO(株式の新規公開)案件の減少、保有する債券の価格が下落して損失が発生したことなどを理由に、経営状態が不安視されていました。こうした動きはFRBの引き締めの影響が徐々に出始めてきたことの表れともいえます。

 今後も銀行や不動産など、金利に敏感な業種で広がりを見せることも考えられ、株式市場がもうしばらく不安を先取りする動きを見せるかもしれません。また、それと同時に、米金融政策による実体経済悪化への影響を強く意識させた面もあります。

 それだけに今週公表される米国の経済指標に対する注目度がより高まったといえます。気を付けておきたいのが、景況感の悪化にもかかわらず、インフレが収まらないという「スタグフレーション」シナリオの色彩が濃くなることです。

 とりわけ、米2月CPIの結果や、米物流大手フェデックスの決算の動向が今週の相場の行方のカギを握ることになりそうです。

今週の日本市況、昨年8月の高値2万9,222円が余地

 続いて、日本株の買い材料についても考えます。

 先週の日本株が上昇した背景をざっくりまとめると、(1)為替市場の円安傾向をはじめ、(2)さらなるコロナ規制緩和(水際対策やマスク着用、2類から5類への引き下げなど)による国内経済のリオープン期待、(3)低PBR(株価純資産倍率)改善に向けた取引所の取り組み期待によるバリュー株の物色に、(4)先週末10日(金)のメジャーSQをにらんだ需給的な思惑が加わったことが挙げられます。

 そのうち、メジャーSQの通過によって需給要因がなくなるほか、(1)の円安傾向は一服しつつあります。また、(2)については、15日に2月訪日外客数が公表されるため、中国インバウンド関連が注目される可能性があります。

 また、(3)については、比較的息の長いテーマとして意識されそうですが、バリュー株を中心とする物色は、あくまでも割安の修正であるため、目先の上値は、過去に「値覚え」した昨年8月の、日経平均高値(2万9,222円)辺りまでが余地となり、反対に、株価が下落した場合には図1にもあるように、25日・75日・200日移動平均線が下値の目安として想定されます。

 今週は米国株市場が不安定な展開が予想される中、日本株はその不透明感に「対抗」するのか「並走」するのかをうかがう週となりそうです。