「あなたの言う我々とは?」自分以外の人々

「進撃の巨人」第19話の「まだ目を見れない」で、主人公の少年は、人類の敵とされる巨人の力を宿していることが発覚したため、公開審議にかけられます。

 主人公の少年を「危険な存在」だとして一方的に非難した一部の住民に対し、巨人を討伐する役割を担う兵団の兵長が、「あなたの言う我々とは、あなたが豊かになるために守っている友達の話でしょう?土地が足りず、食べるのに困っている人は、あなたの視界に入らないのですか?」という趣旨の発言をし、反論します。

 壁で囲われた人類の居住区域の一部に巨人が侵入してしまったことで、人類が活動できる範囲が一気に狭くなり、土地不足・食料不足が深刻化していました。

 主人公が宿す巨人の力を使い、侵入した巨人を倒すことを目指す兵団と、目の前にある危険を一刻も早く取り払い、これまでの安寧を維持することを目指す壁の中の一部の住民との間で、意見の食い違いが生じました。他にも、自らの主張を曲げない住民もいました。

 この様子は、ウクライナ危機勃発(2022年2月)をきっかけに世界で「分断」が目立ち始めていることに似ています。「進撃の巨人」と同様、多くが「我々」を口にし始めたためです。これにより、民主主義・自由主義を旨とする西側と、非西側の間にある溝が深まっています。

 ここで言う「非西側」は、4種類のグループの合計です。旧ソ連諸国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタンなど)、産油国(サウジアラビア、イランなど)、ロシアに隣接する一部のアジア諸国(中国、北朝鮮)、南米・アフリカの資源国(ボリビア、ザンビアなど)です。以下の図とおり、いずれも非民主的な傾向があります(赤やオレンジの国々)。

 こうしたグループは、もともとロシアになびきやすい(主に旧ソ連諸国)、化石燃料の輸出が重要な収益源で西側が提唱する「脱炭素」を受け入れにくい(主に産油国)、独裁色が強く西側が推進する「人権重視」を容認しにくい(ロシアに隣接する一部のアジア諸国など)、西側が否定的にとらえる資源価格の上昇を好意的に受け止める(南米・アフリカの資源国)といったように、細かい文脈は異なれども、「西側と考えが合いにくい国」とまとめることができます。

図:自由民主主義指数(2021年)

出所:V-Dem研究所のデータおよびMapChartをもとに筆者作成

「同床異夢」で連帯感を強め「非西側」と化した彼らもまた、西側と同様、「我々」を述べています。ウクライナ危機は、彼らが叫ぶ「我々」を増幅していると言えるでしょう。危機が存在するから、「我々」を叫ぶことができていると言っても過言ではありません。

 こうした「国単位で起きている自国主義のまん延」を止める術はあるのでしょうか(筆者は人類が豊かさを一定程度、諦めることが、それにあたると考えています。この件は別の機会に述べます)。今後も、同危機起因の影響が、各種市場に及ぼし続けると考えます。