2023年はアニメの年!?

 一部では、2023年に、アニメ業界に数十年に一度の地殻変動が起きるといわれています。過去に日本を席巻した複数の著名なアニメにおいて、新作の映画が公開される、新シリーズが始まる、世界的な上映ツアーが始まる、関連テーマパークで新しいエリアがオープンするなど、さまざまな動きが予定されているためです。

 新作映画の公開予定は、仮面ライダーの生誕50周年を記念した「シン・仮面ライダー」(3月 シン・ゴジラ、シン・ウルトラマンを手掛けた脚本家による)、3DCGアニメ映画「スーパーマリオ」(4月)、宮崎駿監督の新作映画「君たちはどう生きるか」(7月)などです。

 また、「鬼滅の刃」の新シリーズ「刀鍛冶の里編」が始まったり(4月 鬼滅の刃はワールドツアー上映も予定)、ジブリパーク(愛知県)に新エリア「もののけの里」がオープンしたりする(秋予定)など、著名アニメの新しい形に触れることもできそうです。

 上記以外の「地殻変動」の一翼と目されているのが、「進撃の巨人」最終章(ファイナルシーズン)のテレビ公開です。「進撃の巨人」は、2021年春に11年7カ月の連載が完結し、今年、最終章がテレビ公開されます。

 同アニメは「人類と巨人が戦うダークファンタジー」と説明されがちですが、実際は、視点を変えたり、伏線を回収したりする面白さや、人とは何か?などを考えるきっかけが多数存在する、深い含みのあるアニメです。

 この年末年始、おいたちとの会話をきっかけに、改めて単行本を読んでみたところ、投資行為の参考になる記述が複数あることに気が付きました。本レポートでは、同アニメのさまざまな場面をもとに、投資に役立つ考え方を示したいと思います。

「あなたの言う我々とは?」自分以外の人々

「進撃の巨人」第19話の「まだ目を見れない」で、主人公の少年は、人類の敵とされる巨人の力を宿していることが発覚したため、公開審議にかけられます。

 主人公の少年を「危険な存在」だとして一方的に非難した一部の住民に対し、巨人を討伐する役割を担う兵団の兵長が、「あなたの言う我々とは、あなたが豊かになるために守っている友達の話でしょう?土地が足りず、食べるのに困っている人は、あなたの視界に入らないのですか?」という趣旨の発言をし、反論します。

 壁で囲われた人類の居住区域の一部に巨人が侵入してしまったことで、人類が活動できる範囲が一気に狭くなり、土地不足・食料不足が深刻化していました。

 主人公が宿す巨人の力を使い、侵入した巨人を倒すことを目指す兵団と、目の前にある危険を一刻も早く取り払い、これまでの安寧を維持することを目指す壁の中の一部の住民との間で、意見の食い違いが生じました。他にも、自らの主張を曲げない住民もいました。

 この様子は、ウクライナ危機勃発(2022年2月)をきっかけに世界で「分断」が目立ち始めていることに似ています。「進撃の巨人」と同様、多くが「我々」を口にし始めたためです。これにより、民主主義・自由主義を旨とする西側と、非西側の間にある溝が深まっています。

 ここで言う「非西側」は、4種類のグループの合計です。旧ソ連諸国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタンなど)、産油国(サウジアラビア、イランなど)、ロシアに隣接する一部のアジア諸国(中国、北朝鮮)、南米・アフリカの資源国(ボリビア、ザンビアなど)です。以下の図とおり、いずれも非民主的な傾向があります(赤やオレンジの国々)。

 こうしたグループは、もともとロシアになびきやすい(主に旧ソ連諸国)、化石燃料の輸出が重要な収益源で西側が提唱する「脱炭素」を受け入れにくい(主に産油国)、独裁色が強く西側が推進する「人権重視」を容認しにくい(ロシアに隣接する一部のアジア諸国など)、西側が否定的にとらえる資源価格の上昇を好意的に受け止める(南米・アフリカの資源国)といったように、細かい文脈は異なれども、「西側と考えが合いにくい国」とまとめることができます。

図:自由民主主義指数(2021年)

出所:V-Dem研究所のデータおよびMapChartをもとに筆者作成

「同床異夢」で連帯感を強め「非西側」と化した彼らもまた、西側と同様、「我々」を述べています。ウクライナ危機は、彼らが叫ぶ「我々」を増幅していると言えるでしょう。危機が存在するから、「我々」を叫ぶことができていると言っても過言ではありません。

 こうした「国単位で起きている自国主義のまん延」を止める術はあるのでしょうか(筆者は人類が豊かさを一定程度、諦めることが、それにあたると考えています。この件は別の機会に述べます)。今後も、同危機起因の影響が、各種市場に及ぼし続けると考えます。

「巨人の力は絶対」という古い常識

 第91話の「海の向こう側」で、軍事国家の隊長が「巨人の力は絶対である。そうでなければならない」という趣旨の発言をします。劣勢を挽回するため、兵器としての巨人を放つことを提案した部下に対して発した言葉です。

 仮に、放った巨人が死んでしまった場合、当該軍事国家はその象徴を失い、弱体化しかねません。周辺国家に軍事国家としての脅威を振りまき続けるためには、「巨人の力は絶対である」ことを、巨人をうまく利用しながら、示し続ける必要があるのです。

 一方、当該軍事国家が「巨人の力は絶対」と過信している間に、周辺国は対巨人兵器の開発に成功し、絶対が絶対でなくなり始めていました。

「絶対が絶対でなくなりつつある」は、投資の世界でも起きています。「勝ちパターンが勝ちパターンでなくなりつつある」と言い換えられます。以下は、金(ゴールド)市場を取り巻く、七つのテーマです。

図:2023年の7テーマの予想

出所:筆者作成

 現代の金(ゴールド)相場は、短中期三つ、中長期三つ、超長期一つ、合計七つのテーマ起因の上昇もしくは下落圧力を受けながら、推移していると考えられます。

 ソ連のアフガニスタン侵攻、イラン革命、オイルショック、イラン・イラク戦争などの大規模な「有事」が連続して起きた1970年代・80年代に発生した金(ゴールド)価格の急騰、いわゆる「有事の金買い」は、現在でも生きている(投資に活用できる)と考えられますが、それは七つの中の一つであり、全てではありません。

 特に2010年ごろから、欧米の中央銀行の金融緩和・引き締めの規模が大きくなったこと(中央銀行の影響力が拡大したこと)、関連するETF(上場投資信託)の売買が増えて金(ゴールド)の認知が各段に広がったこと(金融商品化が進んで金独自の材料で動く機会が減少したこと)などにより、金(ゴールド)市場は、以前ほど単純な市場ではなくなっています。

 以下の通り、2022年の金(ドル建てゴールド)相場は下落しました(マイナス0.4%)。しばしば、戦争が勃発したり、株価が不安定化したりすると金(ゴールド)価格は上昇する、と言われますが、2022年は、戦争勃発・株価不安定化の中でも、下落しました。

図:主要銘柄の騰落率(2021年末と2022年末を比較)

出所:QUICKのデータをもとに筆者作成

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が利上げを急いだことでドル高、同時に、景気悪化懸念が強まって株安が進行しました。このドル高が金(ドル建てゴールド)安の直接的な要因となりました。米国の金融政策が、市場が最も注目する材料である場合、「有事が起きていても金安」は起き得ます。

「進撃の巨人」内の軍事国家のように、金(ゴールド)相場でも「勝ちパターン」を見いだしにくくなっていることに注意が必要です。

「美しくて残酷な世界」それは市場も同じ

 第7話の「小さな刃」で、主人公を強く慕う少女が、巨人を目の前にして死を意識した際、「この世界は残酷だ、そしてとても美しい」という趣旨の発言をします。武器と移動手段を失った上でたった一人、巨人が迫るのを感じつつ、以前に主人公に助けられた時の記憶を回想しながら発した言葉です。

 人類は有史来、紙、衣服、羅針盤、船、建物、飛行機、電子部品をはじめとした星の数ほどのモノを創り出したり、電気を発見して自在に扱ったり、火、水、木、金属、土を扱う技術を高めたりしてきました。また、法律、芸術、学問、信仰、経済、文化、さらにはお金といった概念を生み出し、高度化させてきました。

 われわれが日々、接している「市場」もまた、人類が生み出した高度な概念の一つです。「市場」は人類の英知の結晶だと考えると、「美しい」と言えるでしょう。しかし、「残酷さ」を併せ持っているのもまた、「市場」です。

 以下は「各種市場を取り巻く環境」のイメージ図です(事象は一例)。1970年代からある事象は「戦争」「為替」「景気」「政治」「生産国の政情」などでした。いたってシンプルな状態だったと言えます(シンプルゆえ、有事「だけ」で金価格が上昇し得た)。

図:各種市場を取り巻く環境(事象は一例)

出所:筆者作成

 しかし、2010年ごろからは、大きく様子が変わります。「先進国の高齢化」「途上国の人口増加」「働き方改革」「巨大IT企業」「ESG」「新型コロナ」など、1970年ごろにはほとんど見られなかった事象が、多数出現しました(一例)。

 先ほどの「「巨人の力は絶対」という古い常識」の箇所で、金(ゴールド)市場が、以前ほど単純な市場ではなくなっていると述べました。中央銀行の影響力が拡大したこと、ETFを通じて金融商品化が進み、金(ゴールド)独自の材料で動く機会が減少したことが、主な要因と述べましたが、こうした事象もまた、以下の事象の一つだと言えます。

 市場を取り巻く環境は、この数十年間で「残酷なまでに変化した」。これは、現代の(金のみならず)各種市場を分析する上で欠かせない考え方であると、筆者は考えます。過去の古い常識にすがっていては、正しい分析はできません。

「得るために捨てる」捨てるべき常識

 第20話の「特別作戦班」で、巨人を討伐する役割を担う、主人公が属する兵団の分隊長の女性が、解明が進まない「巨人」の謎を目の当たりにし、「私たちに見えている物と実在する物の本質は、全然違うのではないか?」「私は既存の見方と違う視点から巨人を見てみたい」という趣旨の発言をします。

 この発言とおもむきが似ているのが、第27話の「エルヴィン・スミス」で、主人公の幼なじみで同じ兵団に属する少年が発言した「何も捨てることができない人には、何も変えることはできないだろう」です。巨人を生け捕りにするという、団長が取った大胆な行動への驚きと敬意に満ちた発言です。

 人類の脅威である巨人の謎を解明すること、そしてその巨人を討伐することが、主人公が属する兵団の目的ですが、目的を果たせないまま、巨人による人的・物的被害が拡大していました。

「過去の常識を捨てて新しい視点を創る(第20話の発言より)」、「何かを変えるために何かを捨てる(第27話の発言より)」。こうした考え方は、行き詰まった状況を打破するために必要な考え方です。

 年々(というより日々)、複雑さを増す各種市場と対峙(たいじ)する市場関係者ら(投資家の皆さまを含む)が備えておくべき考え方でもあると、筆者は考えています。

 以下は、筆者が考える「現在の市場の常識」と、それに対する理解の深め方です。過去の常識を否定することで、現在の常識が浮かび上がってきます。現在の常識を重視することで、「材料の俯瞰(ふかん)と影響力の足し引き」という、現在の市場を分析するために必要な考え方に近づきます。

図:「現在の市場の常識」と、理解の深め方

出所:筆者作成

 金(ゴールド)市場においては、先述の七つのテーマを俯瞰し、それら起因の影響力を相殺することが、現在の常識に則した正しい分析手法と言えます。

 今回は、2023年に最終章がテレビ公開される「進撃の巨人」内で発せられた言葉をもとに、筆者が考える投資に役立つ考え方を示しました。参考になれば、幸いです。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例 

※級は筆者の主観

初級:純金積立、投資信託(当社では、楽天ポイントで投資信託を購入することが可能)

純金積立・スポット購入
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
UBSゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)

中級:関連ETF、関連個別株

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
バリック・ゴールド(GOLD)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
フランコネバダ・コーポレーション(FNV)
ゴールド・フィールズ(GFI)

上級:商品先物、CFD

国内商品先物
海外商品先物
商品CFD