音楽が鳴っている間は、踊り続けなければならない

 先生は、隆一の悪くない反応を見て続けた。
「資本主義とは、市場の需給で価格が決まる社会で、誰もが自由におカネを使え、誰もが自由に儲けることができる社会です。逆に、おカネがないと暮らしていけないし、儲けないと豊かになれない社会です。」
「先生、そこは、理解できています」

「そうですね。私が改めて言ったのは、人々が自由に儲けることができる社会になると、人はどう行動するか、ということです。全員とはいいませんが、ほとんどの人は、もっと儲けよう、損したくない、と行動するのではないですか。」

「それって、当たり前じゃないですか? それが、なぜ、バブルを生むんですか?」

「そう、当たり前なのです。その人間の当たり前の欲求とインフラの進化がポイントです。金融市場が整備されて、投資、あるいは投機がしやすくなると、金融市場でどういうことが起きるのか、ということです。2008年にリーマンショックがあり、市場は大混乱しました。しかし、その手前では債券価格も株価も、長く上昇を続けていました。そして、プロも素人も価格は高くなりすぎているのでは?と感じていました。それでも買う人の方が多かった。なぜでしょうか?」

「確かに、高過ぎると思うなら買わなければいいと思いそうです。みんなバカだったということでしょうか?」

「そう思うでしょうね。でも、それはやはり結果論なのです。『音楽が鳴っている間は、踊り続けなければならない』という有名な話があります。これは2007年にサブプライム・ローンのリスクが高まっている最中に、シティグループCEO(チャック・プリンス)がフィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに答えたものです。つまり、彼らは市場の価格が異常に高いことは、皆、知っていたのです。でも、価格が上昇基調にある間は、買わないと儲けられない。ですから、買わざるを得ないのです」

「投資の素人ならまだしも、プロまでも高いとわかってても買ってしまうのですね」
 隆一は、バブルという巨大なハリケーンが民家を飲み込んでいく姿が目に浮かんだ。