【スペシャル対談】
日興アセットマネジメント有賀潤一郎 
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楽天証券経済研究所篠田尚子

【前編】S&P500+金は、半分ずつ持つのでは意味がない?
【後編】投資信託の「レバレッジ」はリターンと分散、どっちに使うのが正解?

 つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の普及もあり、日本の個人投資家全体としての関心事は、「どの個別株を買うともうかるの?」から「どの株価指数が資産形成に最適か?」にスライドしているように見えます。この流れの中で、人気を集めたのが、米国のS&P500種指数でした。

 ところが2022年に入り、米国では40年ぶりの物価高を抑え込むための大幅な利上げが行われていることもあり、株価は大きく下落。ここ数年で投資をスタートした投資家にとっては、初めて体験する曲がり角であり、「本当にS&P500だけでいいのか?」と戸惑いと不安を抱えている方も少なくないでしょう。

 ただ、世界経済や金融市場はずっと同じトレンドで動くものではなく、いいときも悪いときもあります。多くの方が投資をはじめた「ここ数年が良すぎただけ」。ここは落ち着いて、資産運用のやり方を見直す機会と捉えたいところです。では、リスクを取りながらも、長い時間をうまく使って、より安定的に資産をつくっていくには、どんなアイデアがあるのでしょう。

 日本の個人の資産運用のトレンドとあるべき姿を追い続けてきた2人、日興アセットマネジメント商品開発部長・有賀潤一郎さんと、楽天証券経済研究所の副所長でファンドアナリストの篠田尚子に聞きました。

米国株インデックス投資全盛の今、分散投資の必要性が見直されている

――2022年に入って株式市場は下げ相場が続いています。最近の個人投資家の動向についてどう思われますか?

篠田 この数年は、良好なマーケット環境もあって、専門家の私ですら、「ここまで、つみたてNISAが普及するとは」と思うほど、インデックスに連動する投資信託の積み立て投資が浸透しました。個人投資家の皆さんは、2020年春のコロナショックを経験した中、「積み立て投資は続けることが大切」ということを実感してきたと思います。

 ただ、2022年に入って、ウクライナ問題、インフレ、世界経済の減速など株式市場のリスク要因が次々と噴出し、多くの方が期待をかけてきた「米国株の成長」そのものに影が落ちた。それで、戸惑われている方も多いのではないかと思います。

有賀 ここ2、3年間はグローバル株、特に米国株の上昇を受けて、多くの投資家の方が成功体験というか成功事例を見聞きされるようになりました。それが、つみたてNISAに代表されるインデックス投資を後押したと感じています。

 ただ、歴史を振り返れば、1990年代前半までのバブルのとき、投資信託といえば日本株一色でした。その後、2000年代前半はBRICs(ブリックス※)、2008年秋のリーマンショック直後はアジアと、投資信託で人気の投資対象は変遷しています。

※ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字をとった造語。人口や領土の面で今後の成長性の高い新興国として注目された。

 ここ数年はS&P500に代表される米国株価指数に連動するインデックスファンドが人気です。ただ、長い目で見ると、そうしたマーケットの盛り上がりや商品のはやり廃りがある中、過去のBRICsやアジア人気と同様に米国株が不調の時期を迎えるかもしれません。

 長らく世界の各資産の値動きと、当社でつくった投資信託のパフォーマンスを見続けてきましたが、改めて分散投資の有効性を見つめなおしています。

篠田 当社のお客さまの座談会で、ある方が「私はつみたてNISAはしていますが、投資信託はしていません」とおっしゃられたのを聞いて、かなりの衝撃を受けました。

 自分の将来のために、つみたてNISAを使って、こつこつお金を積み立てるという感覚はあるものの、「積み立てている中身が何なのか」ということまでは、良くも悪くも考えが及んでいない方も一定数いらっしゃいます。ただ、それはそれで「あり」だと思います。

 一方で、資産運用に対してより踏み込んで学び、ステップアップされたいという方もいます。その場合、次のステップとなるのは、単純に一つの株式市場のインデックスファンドに積み立てるだけでなく、他に投資対象はないのか、他の金融商品を組み合わせて投資するとどんな効果が得られるのか、といったことに目を向けること。

 分散投資の必要性に目覚める投資家が今後、増えてくるのではないでしょうか。