「プロの投資家」の蓄積

 本連載に限らず、個人の資産運用をテーマに原稿を書く場合に、「年金基金などプロの運用では常識だ」という形容を付けて正しい(と筆者が思う)内容を紹介することがしばしばある。

 企業年金や公的年金のような年金積立金を運用するいわゆる年金基金、さらに範囲を拡げて米国の大学などで資産を運用する基金も含めていいが、彼らは、「運用会社そのものではないが、運用会社を評価し使う立場で、大きな資金を運用している運用のプロ組織である」と言って間違いない。

 わが国ではまだ少ないかも知れないが、基金の世界の運用の専門家として、実績や見識が高名であったり、プロとして高額な報酬を得ている人物も多数いる。

 彼らの周囲で展開する年金運用の世界は、「プロとしての運用会社」と「運用会社を使うプロ」としての基金との間で、長年に亘って経験と知識が蓄えられていて、こうした知見には、主に「運用会社を使う」立場である個人にとって参考となるものが少なくない。こうした知識は個人投資家にとっても大いに取り込む価値がある。資産運用に限らず「全て自分で経験してみなければ分からない」と決め込むと、人生は時間が足りないし、能率が悪い。

 他方、内外から長年「基金」というものを見ていると、必ずしも彼らの考え方や行動の全てが、個人投資家にとって模範とするに足るものでもないことが、筆者にも少し分かって来た。

 今回は上・下二回に分けて、個人の資産運用にあって、年金基金の「教師」として参考とすべきやり方と、実は参考にしない方がいい「反面教師」的側面について、それぞれを複数紹介したい。

 取り上げたい要素はあれこれ思いつくが、この際、手本とする価値のある「教師」側の知見と、参考にしない方がいい「反面教師」側の行動の両方について、それぞれ3つに絞ってお伝えしよう。