3.複数アカウントの合理的マネジメント

 年金基金の資産運用に関する考え方やテクニックで、個人投資家が参考にして欲しいと思うのは、複数の運用口座に関する管理の考え方だ。

 年金基金と個人では、扱う金額も異なるし、扱う運用口座数や運用会社数が異なるので、年金基金そのままの形を個人が真似したらいいというものでもない。また、「下」で説明するが「コア・サテライト運用」のように、年金運用業界ではそれなりに普及している方法でも個人が真似をしないほうがいいやり方もあるので(「本当は」年金基金もやらない方がいい!)、個人は年金基金の運用から、「複数口座管理の正しい考え方」を知って、ご自身の運用に応用されたい。

 近年、個人の資産運用には、企業型DC(確定拠出年金)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、各種のNISA口座など、証券会社や銀行の口座に加えて、個人であっても複数の運用口座の管理が必要なケースが増えてきた。

 加えて、例えば親の資産と子供の資産をある程度統合して管理する方がいい場合が増えつつある。高齢の親とその子供との「二世代運用」が効率的な場合もあれば、今後の制度次第によっては親が子供のNISA口座を利用することでより有利な運用機会を得ることが出来る場合が生じるかも知れない。

 年金基金の複数アカウント運用は、「それぞれの資産の運用を、その分野が『得意な』運用会社に任せよう」という、割合気楽な「いいとこ取り」の思想から生まれたように思われる。だが、基金はこれを実践するうちに、全体の辻褄合わせが難しかったり、売買コストの無駄(運用会社A社が売った銘柄をB社が買うなど)が生じたり、複数組み合わせたアクティブ運用が実質的にパッシブ運用に近づいたり、といった失敗を重ねつつ、年金運用業界では「マネージャー・ストラクチャー」などと呼ばれる、複数アカウントの管理手法を身につけてきた。

 個人が年金基金から学ぶべき複数アカウント管理の原則は以下の4つだろう。

〜個人が複数アカウントの運用で意識したい四原則〜

【原則1】個々の口座ごとに運用を考えるのではなく「全体の合計」をコントロールすること(例:iDeCoだけ見てiDeCoの運用を決めるのは非効率的)。
【原則2】全体の運用の中で適した資産を適した運用口座に集中する(例:NISAは運用益に税制優遇があるのでリスク資産の期待リターンが高い部分の運用を集中する。バランス・ファンドは概ね不適当)。
【原則3】運用口座毎に運用商品のコスト差があれば合理的に節約する(例:外国株のインデックスファンドの手数料がつみたてNISAよりもiDeCoの方が安ければ外国株のインデックスファンドはiDeCoに集中するなど)。
【原則4】相殺的売買を避ける(例:子供の口座Aでリスク資産を積立ながら、親の口座Bでリスク資産を取り崩すのは無駄が大きいかも知れない)。

 率直に言って、資産運用に趣味として熱心に取り組んでいる人でなければ、上記の四原則を充足する運用を行うことは難しいかも知れない。

 こうした人には、運用資産、特にリスク資産に投資する商品の種類を出来れば1つ、多くても2、3にとどめて運用をシンプルにすることを強くお勧めする。概して言うとだが、個人投資家は無意味に多くの運用商品を持っている。