個人投資家が是非真似をしたい年金基金の3つの行動

1.マーケットタイミングに囚われない長期投資

 個人投資家が年金基金の運用に学ぶべき最大のポイントは、リスク資産についてマーケットタイミングを意識した過剰な売り買いを行わないことだろう。

 例えば、基本ポートフォリオとして内外の株式60%というアセットアロケーションを方針として持っている基金は、「株価が下がりそうだから、株式のポジションを当面減らそう」という類いの調整をほとんど行わない。逆の調整についても概ね同様だ。

 例えば「株式60%」という数値を厳密に墨守すべき基準として細かなリバランスでキープすることには別の愚かさがあるので、程度の問題だが、多少の時価変動は別として資産配分をマーケットタイミングによって変更する年金基金は少ない。

 建前としては、年金基金といえども「投資環境を注視して、必要があれば躊躇なくポートフォリオの調整を行う」べき存在なのだが、(1)予測の的中確率、(2)配分を調節した場合の有効性、(3)調整にかかるポートフォリオの諸コスト、などを考えると、「最大限によく考えたけれども、調節しないという判断が本日は最善だ」という意思決定が連続し、それが結果的に正解である場合が多いのが現実だ。

 この点に関連して、年金基金の側で長年蓄えられた知見として、以下のようなものを挙げることが出来るだろう。

  1. 基金にも、運用会社にも、その他の専門家にも「市場タイミングの予想」は難しい(大まかに言うと「当たり外れが半々で、役に立たない」)。
  2. 何と言っても「ポートフォリオの調整コスト」は運用パフォーマンスへのマイナス要素として影響が大きい。
  3. アセットアロケーションの調整を上手くやるという触れ込みの運用会社で今後も信頼できる理由で長期的に成功している会社がない。
  4. チャート分析など、タイミングを分析する手法として一般に広く知られているものは役に立たない。
  5. そもそも世の中一般よりも正しく経済などの市場環境を予測することが難しい。
  6. 仮に経済予測が出来ても、経済予測と市場のリターンとの関係が不安定で有利に利用できないことがほとんどだ。特に、「予測がどの程度市場価格に織り込まれているか」の分析が難しい。

 個人投資家としては、1から4を知っておくと十分だろうが(特に1、2が重要だ)、この程度のことは知っておきたいとも言える。例えば、チャート分析に注力することは時間の無駄だ(「いい加減に気づいて欲しい!」と思うことが、今でも、時々ある)。

 もちろん、年金基金は、広範囲な分散投資を行うなど、「じっとして長期保有」ができるようなポートフォリオを元々作る努力をしているので、個人投資家はこの点も真似することが重要だ。

 投資は結局のところ、リスク資産が持つリスク・プレミアムを集める作業だが、そのためには余計な売り買いを排した長期的なバイ・アンド・ホールド戦略が有効である場合が多い。年金基金にとっても、個人投資家にとっても、事情は全く変わらない。

2.低コストへのこだわり

 例えば、年金運用と投資信託の両方をビジネスとする大手運用会社を考えてみよう。

 この会社が、国内株式のアクティブ運用を行う場合、投資信託だと商品によっては運用管理費用が年率1%を超える場合もあるが、同じ会社が大手年金基金を相手に国内株式のアクティブ運用を提供する場合に運用費用が年率0.1%を切る場合が十分あり得る。

 商品の構造や手間・コストなどが(少々)ちがうとはいえ、主たる商品はこの運用会社の「運用判断」のはずなのだが、大きな差がある「一物多価」が実現している。

 この状況の主たる原因は、年金運用業界の有力顧客(=基金)が運用会社を競争させる関係にあり、運用会社同士が競争したことと、基金自身も運用手数料の引き下げ競争に熱心であったことだ。

 年金基金は、長年の資産運用の経験を通じて、運用にかかる手数料などのコストが運用パフォーマンスにとっていかに重たいマイナス要因であるかを熟知している。

 加えて言うと、年金基金自身あるいはその運用担当者が明らかに運用パフォーマンスに貢献できる機会は、よく考えてみると「手数料の引き下げ」しかないという事情もある。

 運用会社にとって、年金運用は「名誉のために重要だが、儲かりにくい」ビジネスである。年金運用は一件当たりの契約金額が大きいので「運用受託資産残高」が経営上のステイタスである運用会社にとって無視しがたいビジネスだ。しかも、有名基金における解約や不採用は業界内で噂が流れるので、避けたいという事情もある。しかし、運用手数料は安い。多くの運用会社が経営的には「名誉は年金で、儲けは投資信託で」の構造になっている。

 手数料の点については、年金基金業界が運用会社を競争状況に追い込んで上手くやったと言える。

 もっとも、これで簡単に引き下がる運用業界ではない。例えば、ヘッジファンド(成功報酬による実質的な手数料は「ボッタクリ」の域だと言っていい)のような新たな運用商品で年金基金からも儲けようとしたし、米国のかなり有名な年金も一時はこのビジネスに引っ掛かった。

 何れにしても、個人投資家も、くれぐれも手数料を甘く見ないことが肝心だ。今や手数料を安い商品を自分で選ぶことが出来るのだから、「儲けは投信で」の餌食になるのはつまらない。