黒田日銀総裁とパウエルFRB議長の温度差が円安要因に

 ドル/円を動かす最も重要なファクターは「日米金利差」と説明しましたが、もう一つ同じくらい大切な要因があります。それは「日米金融政策スタンスの差」です。

 ドル/円為替は、今の金利差に加え、「日米金利差が先行き拡大するか縮小するかについての市場の思惑」で動きます。金利差が先行き拡大すると思われれば円安が進み、金利差が先行き縮小すると思われれば、円高が進みます。

 金利差が拡大するか縮小するか、市場の期待を支配しているのが、中央銀行の金融政策のスタンスです。「日米の金融政策スタンスの差」が先行きの「金利差拡大または縮小についての市場の期待」を醸成し、ドル/円の動きに影響します。

 米国(FRB)が金融引き締め方針、日本(日銀)が緩和方針ならば、ドル高円安が進みやすく、その逆ならばドル安円高になりやすいと言えます。

 各国の中央銀行総裁が集まった8月26日のジャクソンホールの会議ですごく違和感をもって捉えられたのが、黒田東彦日銀総裁の発言です。世界中の中央銀行が、「インフレ懸念と金融引き締め強化」を強調する中、黒田総裁のみ「日本のインフレ率が先行き低下する可能性と、金融緩和継続の必要性」を唱えました。

 引き締めを唱えるパウエルFRB議長との温度差があまりにも大きかったことから、為替市場で、ドル高・円安が進む要因となりました。

黒田・パウエルの温度差に変化起こるか?

 黒田日銀総裁が真性ハト派であり続け、パウエルFRB議長が強硬タカ派であり続ける限り、日米金利差は開き続け、ドル/円は、140円を超えてさらに150円を目指す展開となるでしょう。

 ただし、私はその可能性はあまり高くないと思います。これ以上、FRBが強硬な引き締めを続けると、早晩米国株がさらに下がり、米景気が目に見えて悪化してくると思うからです。

 そうなれば、パウエル議長の引き締めスタンスは緩み、円安は進みにくくなると思います。

 黒田総裁は、着任以来、一貫してハト派でしたが、パウエル議長は着任以来、タカ派→ハト派→タカ派と豹変(ひょうへん)し続けています。今後のスタンスの変化があるとすれば、黒田総裁ではなく、パウエル議長が先になると思います。

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