西側諸国も危機沈静化を難しくしている

 今、西側諸国※は、インフレを利上げや仕組み(法整備)で沈静化しようとしています。しかし、以前より本欄で述べているように、こうした策はインフレを根本から解決する策ではありません。現在のインフレがウクライナ危機起因の供給制約で起きているためです(需要増加(経済過熱)によるインフレであれば、こうした策は効果を発揮する)。

 例えば西側の最主要国、米国では、中央銀行がインフレ退治は自分の役割だと疑わず、利上げに固執したり、米国政府が3カ月を切った中間選挙を前に、選挙戦を優位に進めるためになりふり構わずふるまったりしています(インフレ抑制法案の可決、学生へのバラマキなど)。

 選挙戦を重視せざるを得ないのは、有権者である一般大衆の関心がインフレに向いているためです。以下の通り、米国国民が感じる「最も緊急な問題」は、海の向こうのウクライナの情勢ではなく、目の前のインフレです。

図:米国国民が感じる「最も緊急な問題」の順位

出所:キニアピック大学の調査より筆者作成

 大衆や中央銀行の関心を、ウクライナからインフレに移してウクライナ危機対応の温度感を低下させる。これは、ロシアが仕組んだ罠なのか、それとも周囲で何が起きていてもインフレを最大の関心事にしてしまう資本主義社会の宿命なのか、定かではありません。

 およそ100年前のウラジーミル・レーニン(ロシア革命の指導者)の言葉とされる「資本主義を破壊する最善の策は通貨を堕落させること(インフレを起こすこと)」をもとに考えれば、それは資本主義の宿命なのであり、弱点なのでしょう。

 そしてその弱点を、ウクライナに侵攻して供給懸念をあおり、鋭く突いたのがウラジーミル・プーチン大統領だった、と言えるでしょう。西側自らが、制裁という形で供給懸念に加担したり、中央銀行が利上げに固執して経済が混乱したりすることも、初めからわかっていたのではないでしょうか。

 インフレを利上げや法整備という対症療法で沈静化しようとしたり、ウクライナ危機を急所にとどかない制裁で沈静化しようとしたりしていては、症状(インフレやその根本原因であるウクライナ危機)を根治することはできません。

 この半年間でますます、西側の大衆や中央銀行の視点がずれ(根本原因を見ずに目先の不安事を凝視)、ますます、危機沈静化が遠ざかったと言えるでしょう。根治できなければ、ウクライナ危機は長期化するだけです。

 根本原因から目を背け、「できること」にまい進する米国は、「アメリカ・ファースト」と呼ばれてもおかしくはないと、筆者は感じます。