中国経済にとってさらなる試練。GDP5.5%成長は可能か?
昨今の情勢を眺めながら、2022年という年は中国にとって多難の年であると改めて実感しています。人権問題で物議を醸しながら迎えた北京冬季五輪、その20日後にはロシアがウクライナへ侵攻、ロシアとの関係を戦略的に重視する中国は対ロ制裁には加わらず、ロシア非難もせず、西側諸国からその振る舞い方が問題視されてきました。
3月末から5月末までは上海でロックダウン。6月1日に解除され、同月、景気が回復の兆しを見せ始めたと思ったら今度は猛暑です。一つの困難が去れば(あるいは去らないうちに)、また次の困難に見舞われるという状況です。秋には5年に1度の党大会が控えており、昨今の経済情勢は政治構造や政権基盤にも影響を与えずにはいないでしょう。
中国政府は今年のGDP(国内総生産)成長目標を5.5%前後に設定しています。1~3月期は4.8%増、4~6月期は0.4%増、上半期は2.5%増でしたが、通年の目標達成のためには、7~12月期で8.5%前後の成長が必要になります。以前も本連載でロックダウン解除後の6月の数値が鍵を握る、そこからV字回復をしていけば、目標達成の可能性は十分あると論じました。
以下の表で示したように、6月は工業生産と小売売上高において、比較的顕著な回復が見られます。ただ7月には伸びが鈍化しています。16~24歳の失業率は悪化の一途をたどっており、雇用問題も懸念されます。経済成長に欠かせない基幹産業である不動産業界の投資も同様で、政府が住宅ローンの金利を下げたり、住宅購入者への規制を緩和したりしても数字は上向いてきません。
中国の各種経済統計(2022年4~7月)
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | |
工業生産高 | ▲2.9% | 0.7% | 3.9% | 3.8% |
小売売上高 | ▲11.1% | ▲6.7% | 3.1% | 2.7% |
調査失業率(除く農村部) | 6.1% | 5.9% | 5.5% | 5.4% |
同16~24歳 | 18.2% | 18.4% | 19.3% | 19.9% |
1~4月期 | 1~5月期 | 1~6月期 | 1~7月期 | ||
固定資産投資 | 6.8% | 6.2% | 6.1% | 5.7% | |
不動産開発投資 | ▲2.7% | ▲4.0% | ▲5.4% | ▲6.4% | |
数字は前年同期比。▲はマイナス。中国国家統計局の発表を基に筆者作成。 |
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猛暑による工場稼働停止の影響を受け、8月の数字はさらに悪化する可能性が十分あります。そうなれば、7~9月期の成長率もV字回復とはいかず、10~12月期に禍根と不安を残す局面が生じる悪循環につながりかねません。中国経済への悲観論は高まっています。米ゴールドマンサックスは、2022年の中国GDP成長率を当初予想の3.3%から3.0%へ下方修正。野村証券は当初予想の3.3%から2.8%に下方修正しています。
足元では、新型コロナの感染拡大も懸念材料です。国家衛生保健委員会の発表によれば、感染者数(無症状者含む)は8月18日:2,804人、19日:2,354人、20日:2,310人、21日:1,985人、22日:1,895人、23日:1,774人と予断を許さない状況。全国各地で「プチロックダウン」措置が取られれば、またしても景気下振れの圧力が増大します。
ウクライナ情勢、台湾問題や米中関係といった地政学リスクもまだまだ解消されていません。前途多難と言える中国情勢。引き続き注意深くウオッチしていきたいと思います。
マーケットのヒント
- 歴史的猛暑による水不足、電力不足は「チャイナリスク」を再度顕在化させた
- ロックダウンや計画停電といった中国的政策は、外国企業の収益・株価、世界経済にも直接的、間接的に影響する
- GDP成長率5.5%という目標の達成は困難との前提で中国経済をみていく必要がある