歴史的猛暑に見舞われる中国

 中国が歴史的猛暑に見舞われています。猛暑を象徴するいくつかの例を見てみましょう。

 上海市、浙江省、江西省、湖南省、重慶市、貴州省、江蘇省、湖北省の8カ所において、7月1日から8月10日の平均気温は平年より2度高い29.6度となり、1951年以来最も高い気温を記録しています。

 中部の四川盆地などを中心に現在も猛暑は続いており、8月17日時点で40度以上の気温を記録した気象観測所が262カ所で過去最高に達しました。重慶市など8カ所が44度を記録しています。

 猛暑に伴い干ばつが発生し、水不足も深刻化する中、農業や畜産業への影響も生じています。水不足を克服するため、三峡ダムは8月16日から10日間、放水量を5億立方メートル増やすと表明。ヨウ化銀を雲に発射して雨を降らせている地域もあります。中央政府としても、財政部と応急管理部が連携する形で3億元(約60億円)の災害援助資金を関連地域に交付するなど、対応を急いでいます。

 9月以降もこの猛暑は続くのか、残暑はどの程度なのか、先行きが不安視される今日この頃です。

計画停電で工場休止相次ぐ。トヨタ、パナソニックも

 歴史的猛暑の副作用として、水不足同様に深刻なのが電力不足です。14億人以上の人口を抱える中国で猛暑がこれだけ続けば、各家庭における空調使用は増加し、電力の需要は伸びます。そして、国民、特に低所得者層に寄り添うことで求心力強化をもくろんできた習近平(シー・ジンピン)政権下においては、企業活動や経済成長そのものよりも、国民の生活や感受性を優先する傾向が顕著にみられます。

 今回の電力不足においても、各家庭への電力供給が滞らないように、工業向け電力の供給を制限しているのが実態で、犠牲になっているのは企業という構造です。言うまでもなく、企業活動が滞り、経済が低迷すれば、国民生活も圧迫されます。ただ、歴史的猛暑が続く足元においては、取捨選択をしつつ優先順位を付けるしかないということなのでしょう。

 計画停電の主な対象になっているのが、生産拠点の集積地帯でもある中西部の四川省と重慶市です。特に四川省では、工業用電力を使用する約1万6,000社の企業に対して、8月15~25日まで生産の全面停止を命じています(当初は20日まで、その後25日まで延長)。

 日本企業の生産活動も影響を受けています。例として、トヨタ自動車は8月15日から四川省成都市にある合弁工場の稼働を停止しました。イトーヨーカ堂も節電を実施しています。重慶市では、いすゞ自動車、デンソー、パナソニック、ヤマハ発動機などが工場の稼働を停止、あるいは一部停止してきました。

 米電気自動車(EV)大手テスラなどにEVバッテリーを供給する寧徳時代新能源科技(CATL)、米アップルに部品を供給している台湾の富士康科技集団(フォックスコン)、および米半導体大手インテルといった企業の工場も稼働停止に見舞われています。

 中国を襲った歴史的猛暑は、中国経済はもちろん、中国を「世界の工場」と見なしてきた外国企業の活動や収益、そして世界経済全体にまで影響を及ぼしているのです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い上海で2カ月以上ロックダウン措置が取られた際にも議論になりましたが、サプライチェーン(供給網)や消費市場として影響力が拡大し、世界経済との相互依存関係が深まる中国とどう付き合っていくべきかが問われているのです。

中国経済にとってさらなる試練。GDP5.5%成長は可能か?

 昨今の情勢を眺めながら、2022年という年は中国にとって多難の年であると改めて実感しています。人権問題で物議を醸しながら迎えた北京冬季五輪、その20日後にはロシアがウクライナへ侵攻、ロシアとの関係を戦略的に重視する中国は対ロ制裁には加わらず、ロシア非難もせず、西側諸国からその振る舞い方が問題視されてきました。

 3月末から5月末までは上海でロックダウン。6月1日に解除され、同月、景気が回復の兆しを見せ始めたと思ったら今度は猛暑です。一つの困難が去れば(あるいは去らないうちに)、また次の困難に見舞われるという状況です。秋には5年に1度の党大会が控えており、昨今の経済情勢は政治構造や政権基盤にも影響を与えずにはいないでしょう。

 中国政府は今年のGDP(国内総生産)成長目標を5.5%前後に設定しています。1~3月期は4.8%増、4~6月期は0.4%増、上半期は2.5%増でしたが、通年の目標達成のためには、7~12月期で8.5%前後の成長が必要になります。以前も本連載でロックダウン解除後の6月の数値が鍵を握る、そこからV字回復をしていけば、目標達成の可能性は十分あると論じました。

 以下の表で示したように、6月は工業生産と小売売上高において、比較的顕著な回復が見られます。ただ7月には伸びが鈍化しています。16~24歳の失業率は悪化の一途をたどっており、雇用問題も懸念されます。経済成長に欠かせない基幹産業である不動産業界の投資も同様で、政府が住宅ローンの金利を下げたり、住宅購入者への規制を緩和したりしても数字は上向いてきません。

中国の各種経済統計(2022年4~7月)

  4月 5月 6月 7月
工業生産高 ▲2.9% 0.7% 3.9% 3.8%
小売売上高 ▲11.1% ▲6.7% 3.1% 2.7%
調査失業率(除く農村部) 6.1% 5.9% 5.5% 5.4%
同16~24歳 18.2% 18.4% 19.3% 19.9%
  1~4月期 1~5月期 1~6月期 1~7月期
固定資産投資 6.8% 6.2% 6.1% 5.7%
不動産開発投資 ▲2.7% ▲4.0% ▲5.4% ▲6.4%
数字は前年同期比。▲はマイナス。中国国家統計局の発表を基に筆者作成。

 暑による工場稼働停止の影響を受け、8月の数字はさらに悪化する可能性が十分あります。そうなれば、7~9月期の成長率もV字回復とはいかず、10~12月期に禍根と不安を残す局面が生じる悪循環につながりかねません。中国経済への悲観論は高まっています。米ゴールドマンサックスは、2022年の中国GDP成長率を当初予想の3.3%から3.0%へ下方修正。野村証券は当初予想の3.3%から2.8%に下方修正しています。

 足元では、新型コロナの感染拡大も懸念材料です。国家衛生保健委員会の発表によれば、感染者数(無症状者含む)は8月18日:2,804人、19日:2,354人、20日:2,310人、21日:1,985人、22日:1,895人、23日:1,774人と予断を許さない状況。全国各地で「プチロックダウン」措置が取られれば、またしても景気下振れの圧力が増大します。

 ウクライナ情勢、台湾問題や米中関係といった地政学リスクもまだまだ解消されていません。前途多難と言える中国情勢。引き続き注意深くウオッチしていきたいと思います。

マーケットのヒント

  1. 歴史的猛暑による水不足、電力不足は「チャイナリスク」を再度顕在化させた
  2. ロックダウンや計画停電といった中国的政策は、外国企業の収益・株価、世界経済にも直接的、間接的に影響する
  3. GDP成長率5.5%という目標の達成は困難との前提で中国経済をみていく必要がある