米国市場、パウエル議長の発言に要注意

 通常のセオリー通りならば、「今週の株式市場はイベント通過によって、株価が上昇していく」という見通しになるはずだったのですが、パウエル議長の講演を受けた26日(金)の米国株市場が大きく下落する反応を見せたことで状況が変わってきました。

図2 米NYダウ(日足)の動き (2022年8月26日取引終了時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 上の図2を見ても分かるように、先週の米NYダウ(ダウ工業株30種平均)は週末26日(金)に出現したローソク足の大きな陰線が目立っています。

 前日の25日(木)までの値動きについては、3万3,000ドルや25日移動平均線などの節目がサポートとして機能していました。日経平均と同様に、イベント前の警戒感の織り込みが完了したかのように思えたのですが、実際にはそうとはならずに、パウエル議長講演後の株価が下げ足を速める格好となってしまい、50日移動平均線で下げ止まれるかがポイントになっています。

 したがって、今週の日本株はこうした米国株市場の流れを受けることは避けられず、軟調スタートが想定されます。気になるのは、今週の日米株式市場がこのまま下げ基調を強めてしまうのかどうかですが、そのためには、先週末の米国株の下落とそのきっかけとなったパウエル議長の講演内容をどう捉えたらよいのかについて考える必要があります。

 まずは、パウエル議長の講演内容についてです。主な発言内容をピックアップすると、以下のようになります。

・「インフレ抑制を成し遂げるまで(現行の政策)を続けないといけない」
・「足元の(物価上昇の)鈍化だけでピークアウトと呼ぶには程遠い」
・「9月開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ幅の判断は今後のデータや見通し次第」
・「金利上昇による経済への影響が想定され、家計や企業に何らかの痛みをもたらす」
・「ある時点で利上げペースを緩めることが適切となる可能性」

 これらの発言を確認すると、確かに想定されていたようにタカ派色の強いものではありましたが、特に驚きの内容はなかったと思われます。パウエル議長の講演は当初30分の予定時間に対してわずか8分という短いものだったこともあり、簡潔ゆえに発言の印象が強くなってしまった面もあるかもしれません。

 そのため、パウエル議長の講演を受けた株価の下落は、それだけ市場が楽観的だったことと、相場の時間軸の修正が行われた可能性があります。

図3 相場のサイクル

出所:各所データをもとに筆者作成

 上の図3は相場のサイクルについてまとめたものになります。

 足元の状況は、インフレに対処するために金融政策を引き締めている「逆金融相場」に位置しているわけですが、金融政策についての思惑については、最近までの株価上昇が示していたように、引き締め鈍化観測から、さらにその先にある緩和への転換を期待する動きも一部で見られ、本来であれば景況感の悪化や、業績後退を警戒する「逆業績相場」から、その先にある「金融相場」を先取りしている面がありました。

 パウエル議長の発言は、ある時点で利上げペースを緩めることが適切となる可能性はあるものの、それがすなわち金融政策の転換を意味するわけではなく、一足飛びに「金融相場」に向かわないことを市場に認識させることになりました。

 また、9月のFOMCの利上げ幅は今後のデータ次第ですので、今週末に公表予定の米8月雇用統計など、しばらくは経済指標の動きに敏感に反応する相場地合いとなり、相場の時間軸が短くなることが考えられます。

 楽観的な金融政策見通しの修正については、あまり時間がかからないと思われ、さほど心配しなくても良さそうですが、今回の講演を機に「逆業績相場」への意識が高まることも考えられ、米国の景気や企業業績の悪化の織り込みが始めると、もう一段階の株価下落が想定されます。

 これらを受けて、今後の日経平均の想定レンジについても考えていきます。