NISA口座での投資がオトクになるケースと損をしてしまうケース

 皆さんはNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座を活用していますか? 筆者もNISA制度がスタートした2014年から使っていますが、正直なところうまくいったケースとそうでないケースがあります。

 NISA口座には売却益や配当金が非課税となるという税制面のメリットがありますが、その一方、税制面でマイナスに作用するケースもあります。

 そこで今回は、具体例を使って、NISA口座を使って投資することによりプラスに働くケースとそうでないケースを確認していきましょう。

 なお、2024年から新NISA制度がスタートしますが、今回の説明は従来のNISA制度をベースにしています。

 新NISAと現NISAの違いは非課税限度額が122万円(1階部分20万円+2階部分102万円)か120万円かという点だけですので、説明上不都合はないと思います。

具体例1:成長株で売却益狙い

 筆者が提唱するNISA口座の活用法の一つが、「成長株への投資で大きな売却益(キャピタルゲイン)を狙い、非課税の効果を最大限狙う」というものです。

 いくら多額の売却益が生じても非課税期間内であれば税金はゼロですから、できるだけ大きな利益を狙える銘柄を選ぶのが面白いと思います。

 一方、大きな利益を狙える銘柄は、期待値が高い分、実際に期待通りの業績が上がらないと、株価が大きく下落してしまう可能性もあります。そうなると、NISA口座を使って投資したことが逆にマイナスに作用してしまいます。

 例えば、120万円を成長株のA社へ投資したとしましょう。非課税期間内に売却益がそれぞれ次の3パターンになったとします。

パターン1:売却益360万円(株価4倍)

パターン2:売却益ゼロ(株価変わらず)

パターン3:売却損108万円(株価10分の1) 

 パターン1の場合、通常口座なら360万円×20.315%=73万1,340円の税金がかかるところ、これがゼロになりますので73万1,340円の節税効果が生じます。

 パターン2の場合は、売却益がゼロなので、税金もゼロです。通常口座でもNISA口座でも損得に変わりありません。

 パターン3の場合、売却損が108万円です。通常口座であれば、売却益や配当金と損益通算することができれば、108万円×20.315%=21万9,402円の節税効果がありますが、NISA口座の場合は損失が切り捨てとなるので、この節税効果が得られなくなります。

 このように、売却益が大きくなればなるほどNISA口座の節税効果も大きくなりますが、逆に売却損が大きくなると、通常の口座では得られたはずの損益通算による節税効果の恩恵を受けることができないのです。

具体例2:高配当株への投資で売却益&配当収入狙い

 あまりリスクを取らず、大きくはないものの着実に節税効果を取りたい場合は、高配当株へ投資して配当収入などの定期収入(インカムゲイン)を狙い、あわよくばキャピタルゲインも狙うというのも悪くないでしょう。

 120万円を配当利回り3%の高配当株B社に投資し、ロールオーバーの制度も使って10年間非課税枠で投資したケースを考えます。

 まず配当金として、10年間で3%×10=30%を受け取ることができます。金額は合計で120万円×30%=36万円です。

 それに加え、売却損益が次のように生じたとしましょう。

パターン4:売却益60万円(株価50%上昇)

パターン5:売却益ゼロ(株価変わらず)

パターン6:売却損60万円(株価50%下落)

 パターン4の場合、配当金36万円と売却益60万円の合計96万円×20.315%=19万5,024円の税金が非課税となり、それだけ節税効果が得られます。

 パターン5は、配当金36万円×20.315%=7万3,134円の節税効果が得られます。

 パターン6は、売却損60万円につき、通常口座であれば損益通算で得られた可能性があった、60万円×20.315%=12万1,890円の節税効果を得られない一方、配当金で得られる36万円×20.315%=7万3,134円の節税効果を加味すると、失った節税効果は4万8,756円に抑えることができます。

 このように、高配当銘柄であれば、株価下落によって売却損が生じた場合でも、損益通算ができず損失が切り捨てられることによるマイナス効果を配当金により相殺することができます。

 今回の例では、配当金が10年間で36万円ですから、この間の株価下落が36万円(30%)以内に収まれば、損益通算できずに損失が切り捨てになることを避けることが可能です。

税金面での損得だけでなく「実際のキャッシュの減少」に要注意

 このように、売却益や配当金により節税効果が得られる一方、売却損が生じたときは損失が切り捨てられるため、できるだけ株価下落による売却損を避けたいところです。

 それに加え、売却損が生じた場合は節税効果が得られないだけでなく、キャッシュそのものが減ってしまっている点も忘れてはなりません。

 例えばパターン3であれば、21万9,402円の節税効果が得られないことに加え、実際にキャッシュが108万円減少してしまっています。

 ですから、株価下落による実際のキャッシュの減少については、「株価の大きな上昇による高い節税効果を狙った結果なのだから仕方ない」と割り切るのも一つですが、先日のコラムでご紹介したように、空売りでヘッジすることにより、値下がりによる損失の一部を取り戻すことも考えてみてはいかがでしょうか。

 なお、通常口座で得られる売却損の損益通算による節税効果については、損益通算できるだけの売却益や配当金が存在することが前提です。売却損については繰越できる期間が3年間で、それを過ぎると切り捨てになってしまう点には注意してください。