中国は日本の憲法改正や防衛力拡大をどう見ているか?日中関係は悪化するか?

 中国共産党は、日本や欧米を含め、他国の選挙に対するコメントには慎重になる傾向があります。中国として、自国の共産党大会や全国人民代表大会といった政治アジェンダを巡って他国にとやかく言われたくないからです。とはいえ、憲法改正、防衛費拡大といったイシューに関しては、日本の対外姿勢、軍事力に直接関わる問題であり、外交部や国防部の報道官がピンポイントでコメントする場合もあります。

 近年のコメントを拾ってみました。

 まず憲法改正に関して、2018年3月22日、外交部の華春瑩(ファー・チュンイン)報道官が定例記者会見の場で次のようにコメントしています。

本質的に、日本が憲法をどう改正するかは日本の内政である。しかし、歴史的な原因とみなさんが理解できる原因から、日本が平和憲法を修正するという問題は国際社会とアジア諸国の高度な関心を集めてきた。加えて、近年、日本国内の一部関係者があの脅威、この脅威などを持ち出して軍拡に向けた口実を作り、世論を扇動している。我々は日本が平和的な進路を堅持することで、実際の行動を以てアジア諸国や国際社会の信頼を勝ち取り、日本と近隣諸国との関係改善に向けた条件を創造することを望んでいる

 日本の憲法改正という内政アジェンダに深入りはしないが、一定程度の警戒心を抱き、けん制球を投げてきているのが分かります。このスタンスは現在に至っても変わっていません。中国共産党指導部として、日本が戦後堅持してきた平和憲法、および平和国家としての歩みを前向きに評価してきたスタンスも垣間見れます。

 次に防衛費についてですが、2021年9月1日、同じく中国外交部の汪文斌(ワン・ウェンビン)報道官が定例記者会見で次のようにコメントしています。

日本の防衛予算は9年連続で増加している。それに、何かにつけて周辺諸国の動向に難癖をつけているが、それらは軍事力拡張のための口実に他ならない。中国は日本が平和的発展の道を堅持すべきであると忠告する

 上記の平和憲法へのコメントとも似通っていますが、その警戒心は容易に見て取れます。平和憲法と防衛費拡大、両者に対する中国共産党のスタンスとして共通しているのは、日本が結果的に平和国家としての進路を破棄する、平和憲法が有名無実化することに対する警戒と懸念だと分析できます。

 そして、ウクライナ情勢を受けて、日本の国会や世論が、中国が台湾に対して武力行使をする、中国が尖閣諸島を含めた東シナ海などでこれまで以上に拡張的、挑発的な動きを取る、それに対処するための憲法改正であり防衛費拡大だという論調や姿勢を示している現状に対しては、中国は断固反対し、不満を露わにするでしょう。

 もちろん、この二つのイシューを含めて、先行きは不透明です。防衛費をGDP(国内総生産)比で2%以上なんて本当に可能なのかと疑問視する見方は多々ありますし、憲法改正には国民投票で過半数以上が求められますから、順風満帆にはいかないでしょう。

 NHKが6月17~19日に実施した世論調査によれば、「改正する必要性があると思う」と答えた回答者は全体の37%で、「必要ないと思う」の23%を明らかに上回りましたが、「どちらともいえない」が32%います。

 この結果からしても、焦点は改正するか否かではなく、何をどこまで改正するか、それによって改憲勢力である4党間の合意形成や、有権者に与えるインパクトなども大きく変わってくるものと思われます。

 いずれにせよ、中国は参院選を通じたこれらの状況を緊密に静観しつつ、昨今のウクライナ危機を受けた国際情勢に日本がどう向き合うか、その過程で憲法や防衛費といった政治的に敏感なイシューにどう対処していくかを分析し、状況次第では不満や批判を表していくでしょう。日本と中国の外交関係、経済貿易関係、ビジネス・人的交流にも影響するものと想定されます。

マーケットのヒント

  1. 参院選の結果次第で、憲法改正や防衛費拡大に向けて政権がどう動くかに要注目。
  2. 動向次第では、日中関係は悪化する。
  3. 日中関係の悪化はヒト、モノ、カネの往来に切実に影響し、日本企業の収益、および日本経済自体が損害を被る可能性も全く否定できない。