なぜ市場はインフレを読み誤ったか

FRBの予想は当たらない

 インフレの面から見ても、BTC相場の本格上昇には半年程度はかかりそうだ。話は戻るが、市場が、インフレが早期にピークアウトすると期待し、それが裏切られた結果、リスクオフでBTC相場は2万ドルを割り込んだのだが、なぜ市場は読み誤ったのか。

 理由はいくつもありそうだが、ひとつは市場がFRB(米連邦準備制度理事会)高官の声を素直に信じるからかもしれない。ご存じの通りFRBは隔回のFOMCでインフレ見通しを発表しており、下はその予想と実績だが、ほとんど当たらない。

FOMCメンバーのインフレ予想と実績

(出典:FRBホームページより楽天ウォレット作成)

 FRBがこうした将来の予想を発表しているのは、実は予想を当てるためではなく、期待インフレ率をコントロールして金融政策の効き目を強くするためだ。高インフレ時には期待インフレを低くする方向に誘導するバイアスがかかっている。今回は、市場の目線が彼らの予想に引きずられて下げられた結果、サプライズになってしまったわけだ。

過去50年の米CPIと実質金利

(各種資料より楽天ウォレット作成)

名目金利がマイナス

 市場が見誤る二つ目の理由は、名目金利ばかり見ているからだろう。2022年の見通しでもご紹介したが、今年に入って1.75%利上げしたが、インフレ率が8.6%ということは、実質金利はマイナス7%近くあり、金融政策のインフレへの影響は拡大方向だからだ。

 厳密にいえば、この際に使用するインフレ率は期待インフレ率を使用すべきなのだが、金融市場から計算される期待インフレ率は金融緩和の影響で低すぎる。市場が実質金利に注意を払わない理由の一つは、FRBが実質金利に触れようとしないからだろう。

ミクロでマクロを説明しようとする

 インフレに対して市場が犯しがちな三つ目の誤りは、インフレの原因をコロナ禍のサプライチェーンの問題に転嫁するところだ。それはマクロの現象をミクロで説明しようとする過ちだ。

 確かに昨今、マクロをミクロで説明しようとする議論もあるにはある。ただ、ミクロの全ての要因を説明できるわけでないのに、それをしようとすると我田引水に陥(おちい)りやすい。

 サプライチェーンの問題に矮小化しなくとも、過剰流動性がインフレを引き起こしたが実質金利がマイナスだから収まらない、とマクロで簡単に説明できる。

「パウエルコール」

 結局、ジェローム・パウエルFRB議長も、インフレに対する甘い見通しを撤回、インフレ抑制を優先する方針を明らかにした。

 推測だが、FRB高官たちは、1980年代の経験から、自分たちがすでにビハインドザカーブに陥っていて、そうせざるを得ないことを認識しているが、市場にショックを与えないように明言を避けていた節がある。しかし、今回、(特に共和党からの)インフレをなんとかしろという議員の突き上げを受け、明言せざるを得なくなったものと考える。

 この結果、従来は株価が低迷すればFRBが緩和姿勢を強める「パウエルプット」なるものが指摘されていたが、今後しばらくは、株価が上昇し、市場のリスク許容度に余裕が生まれれば、FRBが引き締め姿勢を強めるといった「パウエルコール」ともいうべき状況が続きそうだ。リスクオン市場への回帰には時間がかかると思われる。

あと半年はかかりそう

 先ほどのインフレとの関係にも符合する。FRBの利上げが奏功してインフレが一服するのに足元のPCEコアデフレーターである4.7%まで利上げするには、あと約3%の利上げが必要で、今のペースの75bpずつ毎回利上げするとして年末まで要する。

 その頃になれば、FRBの利上げによりインフレ抑制の見通しが立つのか、それともインフレ抑制がままならず、FRBおよびドルへの信認が剥落するのか、見通しが立つと思われる。

 分かりやすくまとめてしまえば、市場もFRBもインフレに対する甘い見通しを改め、腹をくくったので、あと半年くらいは米株もBTC相場は低迷しそうだということだ。

 繰り返しになるが、7月のBTCは、少しは反発するが上値余地は限定的となりそうで、本格反発は年末ごろと言った感じだろうか。

2022年 時事イベントと暗号資産イベント(最新順)

5月9日 テラUSD(UST)、ドルとのペッグが崩れ始め、テラ(LUNA)も暴落
5月12日 テラ不安がテザー(USDT)に飛び火、一時94セントに下落
5月13日 野村證券、シンガポールで暗号資産デリバティブ提供開始
5月24日 三井住友トラスト、年内に暗号資産カストディ提供
4月27日 中央アフリカ、ビットコインを法定通貨に採用
4月19日 オーストラリアで初のビットコイン・イーサリアムETFが承認
4月6~9日 Bitcoin2022がマイアミで開催。昨年はエルサルバドルのBTC法定通貨化が発表されたが、今年はやや期待外れの声も
4月4日 ウクライナへの仮想通貨で集まった寄付金、約123億円を超える
3月29日 Axie InfinityのRonin Networkで大規模ハッキング
3月22日 世界最大のヘッジファンド「Bridgewater Associates」、暗号資産ファンドに投資開始か
3月17日 FOMC、0.25%利上げ発表でビットコイン上昇
2月28日 米、ロシア中央銀行の資産を凍結。ルーブル安からBTCに逃避フロー
2月27日  米欧、ロシアをSWIFTから排除
2月25日 ウラジーミル・プーチン大統領、軍事攻撃を命令
2月20日 北京五輪閉幕
2月17日 米大統領、ロシアが数日中にウクライナ侵攻    
2月12日 **BlockFi、SECと1億ドルで和解。米国内でのレンディングサービス困難に
2月4日 北京五輪開幕。当面、軍事衝突が控えられるという見方でBTC上昇
1月20日 ロシア中銀が暗号資産の*マイニングと流通の禁止を提案

*マイニングとは:暗号資産(仮想通貨)は一般的にブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者が誰でも見られる元帳上に取引を記録していきます。そのブロックチェーン上に取引データを記録する際に、膨大な計算を行うことで新たなブロックを生成する暗号を見つけ出し、その報酬としてコインを手に入れる行為のことです。マイニングの主な役割は「暗号資産の新規発行」と「取引の承認」です。

**BlockFiとは:暗号資産融資プラットフォームBlockFi(ブロックファイ)が提供する暗号資産を預かって利息を払うサービス(レンディング)が証券法に違反したと提訴された事件に関する和解として、SEC(米国証券取引委員会)に1億ドル(約115億円)を支払うと発表。

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