為替DI:6月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスのときは「円安」見通し、マイナスのときは「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありません。しかし、アンケートに個人投資家の相場観が正確に反映されているならば、DIの「多さ」は「強さ」に関係することになります。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

 楽天証券が先月末に実施した相場アンケート調査によると、6月のドル/円は「ドル高/円安」に動くとの回答が、全体の36%を占めました。円安見通しは、5月に比べて26ポイントの大幅減となりました。

「ドル安/円高」は全体の25%で、先月に比べて11ポイント増加。39%は、「変わらず(わからない)」との回答でした。

 5月には個人投資家の62%が円安見通しを持っていましたが、今回は36%まで大きく減りました。

 5月のドル/円は、ゴールデンウイーク明けの9日に20年ぶりの円安水準となる131.35円まで上昇したものの、その後は失速。24日は126.35円まで下落しています。4月に円安に動いた分の約50%を吐き出す動きを見て、「円安が終わった」と考えた方が多かったようです。

 ただ、このアンケートが締め切られた直後に130円台まで戻し、6月7日には133円まで円安が進んでいます。

円安は、日本経済の追い風か?

「新型コロナの時代は、今よりまだ良かった…」。

 2年間世界を苦しめた新型コロナ感染の悪夢がようやく終わりに近づき、今年は明るい年になるという期待は裏切られました。ロシアのウクライナ侵攻によって、世界はさらに暗い方向へと進んでいます。

 ロシアが天然ガスや原油などの天然資源を「戦略武器」として使用したことで、エネルギー安全保障が、これまでにないほど世界経済にとって重要な意味を持つようになりました。

 エネルギー供給の多くをロシアに依存する欧州は、ロシアの設定した価格や条件に従う「価格追随者」的立場である限り、ロシアに対する制裁効果は限定的です。EUは、ロシアに対する天然ガス代金のルーブル払いを「制裁に反していない」として、ロシアの要求をのむしかありませんでした。

 日本では、今年の夏は平年以上に猛暑の予想で、電力供給が絶対的に不足することは確実になっています。日本政府はエネルギー対策を発表しましたが、どのような内容かといえば「エアコンの設定温度を28度に上げ、部屋の照明を落として、テレビは集まって見ること」(密です!)。新型コロナの時が、まだましだったと思える夏になりそうです。

 日本は世界最大のLNG(液化天然ガス)輸入国です。ロシアからの輸入比率は低いので欧州のような問題に直面することはないですが、エネルギー価格の世界的な高騰は日本経済にダメージを与えます。大規模停電の頻発で生産がストップすることになれば、日本の製造業にとって大きなリスクとなります。

 中央銀行は過去数十年間、エネルギー価格の上昇は家計の可処分所得の減少であると捉えてきました。エネルギー価格の急上昇は消費行動を縮小させますが、その結果、インフレ期待は暴走することなく、安定的に維持されてきました。

 しかし、インフレがエネルギー価格にとどまらず、広範な商品に及ぶ現在の状況においては、インフレ期待は逆に不安定になり、1973年に日本を襲ったような、オイルショックによる「狂乱物価」が発生するおそれがあります。

 この状況で先進国の中央銀行は「インフレ退治」と「景気刺激・経済成長」のどちらを優先するべきかで悩んでいます。FRB(米連邦準備制度理事会)は、はっきりしていて、経済成長を犠牲にしても、インフレ退治を徹底する考えです。

 利上げも0.25ポイント刻みでは足りないといって、0.5ポイントに倍増しました。インフレを制御できなければ0.75ポイント利上げの可能性もあります。ECB(欧州中央銀行)も、7月の利上げが確定的となりました。

 日本銀行の悩みは、他の中央銀行とは逆に、インフレを「いかにして上げるか」ですが、現在の大規模緩和を続け、円安を放置することで、ついにインフレ目標を達成することになるでしょう。「家計は値上げを受け入れている」という発言は、黒田東彦日銀総裁の勝利宣言です。しかし、その代償として経済成長は犠牲にされます。

 では、日本の経済成長は何を頼りにするのか? それは、「新型コロナ前のインバウンド景気よ。もう一度」です。海外観光客を大量に呼ぶには、いっそ150円くらいまで円安になってくれた方がいいと政府は願っているのではないでしょうか。

 しかし、インフレを抑制しようと世界の主要中央銀行が利上げを急ぐ中で、あえて国内インフレをあおる政策をとる日銀の政策は、遠からず限界を迎えるというのがマーケットの見方です。

 日銀が金融引き締めをぎりぎりまで先延ばしした結果、何が起きるか。より急峻(きゅうしゅん)かつより大幅な利上げです。インフレは一過性として利上げを見送ってきたFRBの利上げスピードがそれを証明しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、6月のユーロ/円は、個人投資家の30%が、「ユーロ高/円安」に進むと予想しています。

 ユーロ高予想は、先月から20ポイントの大幅減。

「ユーロ安/円高」は21%で、先月から7ポイント増加。

 49%は「変わらず(わからない)」との回答でした。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、6月の豪ドル/円は、個人投資家の29%が、「豪ドル高/円安」に進むと予想しています。

 豪ドル高予想は、先月から19ポイント減少。

「豪ドル安/円高」は18%で、先月から7ポイント増加。

 全体の53%は「変わらず(わからない)」との回答でした。