「食糧危機」を引き起こす3つの要因

 以下は、筆者が考える現在の「食糧危機」を引き起こしている3つの要因です。「生産量減少」「輸出量減少」「囲い込み拡大」、いずれの要因も「供給量を減少させる要因」です。

 ウクライナの輸出量減少など、すでに発生している具体的な材料のほか、ウクライナの今年冬に作付けする小麦(2022年/2023年度の冬小麦)の生産減少や、ロシアの穀物禁輸対象国の拡大など、まだ発生していない材料(懸念)もあります。(実態はなくても「懸念」は強い価格変動要因になり得る)

「★」印をつけた材料は「ウクライナ危機」起因の材料です。ウクライナ危機が終わらない限り、なくならない可能性が高い材料です。その他、米国ではトウモロコシの作付け進捗(しんちょく)が平年に比べて遅れていることや、昨年度、小麦を大きな規模で輸出したインドが先日、輸出を停止することを宣言した、などの材料が挙げられます。

図:「食糧価格上昇」を引き起こす3つの要因(筆者イメージ)

出所:筆者作成

ロシアとベラルーシの化学肥料輸出

 ロシアとその隣国であり同盟国のベラルーシは、カリ鉱石の主要生産国です。同時に、両国は、カリ鉱石を利用して作る化学肥料の一種「カリ肥料」の主要輸出国でもあります。

 各国の貿易統計を集約したThe Observatory of Economic Complexity(OEC)のデータによれば、世界全体に占める2つの化学肥料(カリ肥料と窒素肥料)の輸出額シェアは、2カ国合わせて19.4%です。ロシアはカナダに次ぐ世界第2位、ベラルーシは中国に次ぐ4位です。(2020年)

 USDA(米農務省)のデータによれば、近年、世界全体の主要穀物の生産量の増加率は、収穫面積の増加率よりも高いことがわかります(2010年度から2020年度)。

 この間、単収(一定面積あたりの生産量。生産量÷収穫面積)の増加が、世界の穀物生産量の増加を支えたわけですが、それには、品種や農耕機械などの改良だけでなく、化学肥料の存在が大きかったと考えられます。

 化学肥料は、窒素、カリウム、リンという、植物自身が土壌中から摂取することが難しい養分を補うために必要不可欠とされています。

 報道によれば、ロシアは昨年秋から、ベラルーシはロシア侵攻前から、一定の条件のもとで、化学肥料の輸出を停止しているとされています。

 これを受け、化学肥料の価格(グリーンマーケッツが集計する北米の肥料価格指数)は、ウクライナ侵攻後に騰勢を強め、足元、昨年夏の2倍弱の水準に達しています。(指数の集計が始まった2002年1月以降の最高値水準)

 ロシアとベラルーシからの化学肥料の供給減少は、化学肥料価格を上昇させて農産物の生産コストを押し上げています。また、肥料そのものの供給減少は、今後、世界的な単収低下の要因となり、「食糧危機」を強める可能性があります。

図:世界の窒素・カリ肥料輸出シェア(2020年)

出所:The Observatory of Economic Complexityのデータをもとに筆者作成

ウクライナの農産物輸出量と見通し

 USDAは今月、需給見通しを公表しました。今月より、2022年/2023年度産の見通しが含まれるようになりました。以下は、ウクライナにおける主要農産物の輸出量とその見通しです。見通しの段階ではあるものの、トウモロコシと小麦、そして世界屈指の輸出シェアを誇るヒマワリ油の輸出量が大きく減少すると、されています。

図:ウクライナにおける主要農産物の輸出量 単位:千トン

出所:USDAのデータをもとに筆者作成

 USDAのデータによれば、ウクライナの輸出シェアは、トウモロコシが13.0%、小麦が8.3%、ヒマワリ油が46.7%です(2020年度)。

 高シェアを誇るウクライナの輸出量が急減する見通しが示されたのは、ロシアによる黒海沿岸の主要港湾の閉鎖や、軍事侵攻で生産活動の一部に支障が出ているためです。(グテーレス国連事務総長の指摘でも言及されている)

 その他、ロシアによる「囲い込み」拡大の懸念もあり、ウクライナ危機が終わらない限り、なくならない可能性が高い材料が複数あり、さまざまな方面から「食糧危機」が起きていると言えます。