「インフレに対する最良の防御策は、自分自身のスキルに投資すること」(バフェット)

 投資家のためのウッドストックと呼ばれるバークシャーの年次総会が先月末開かれた。今回の総会は3年ぶりにリアルでの開催となり、世界中から多くのバークシャー株主が集った。

 CNBCの記事「Warren Buffett says inflation ‘swindles almost everybody,’ Munger rails against bitcoin, market ‘mania’ at Berkshire meeting(バークシャーの総会において、ウォーレン・バフェットはインフレが「ほぼ全員をだます」と述べ、マンガーはビットコインと市場の「マニア」を批判)」から、総会の様子を簡単に振り返る。

 バフェットが永年のビジネスパートナーであるマンガーと共に会場のステージに登場すると株主から大きな拍手が湧き起こった。

 バフェットは冒頭「ここに戻ってくることができて気分がいい」と述べ、「私たち2人(バフェットとマンガー)の年齢を合計すると190歳だ。もしあなたが会社のオーナーで、98歳と91歳が会社を経営しているのなら、実際に2人の姿を見ておかなくちゃならない」とジョークで株主を迎えた。

 バークシャー・ハサウェイの年次総会の始まりはいたって質素なものだったという。地元のオマハ・ワールド・ヘラルド紙によると、ウォーレン・バフェットがオマハで総会を開催するようになって最初の数年間は参加者がわずか10人程度だった。

 そこから徐々に人数が増え、1985年には250人、1989年には1000人、1996年には5000人が総会に参加するようになり、2000年代に入って数万人が参加する一大イベントとなる。このためオマハは、ビジネスと金融の世界の人々の「巡礼の地」とされている。

 今回の総会にはJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが初めて参加した他、マイクロソフトが買収したアクティビジョンのCEOやアップルのティム・クックCEOも出席していたとのこと。

 総会の目玉はバフェットとマンガーが長時間にわたり株主からの質問に直接答えるQAと長老2人の丁々発止のやりとりである。今回の質疑応答は5時間近くに及び、その中で彼らの投資哲学をうかがえる話がいくつかあった。

 バフェットは3月中のわずか2週間で、石油大手オクシデンタル・ペトロリアムの14%を取得、その価値は70億ドル以上に及ぶ。

 これについてバフェット氏は「2週間で、何十年も続いている事業の14%を買うことができた」と語り、「ギャンブル精神」にあおられた今年初めの短期的な変動が、長期的な良い機会を見つけることを可能にしたと述べた。

 しかしその一方で、投資する企業を見つけるのに「とても苦労している」とも語った。「どんな代償を払ってでも、どんな坂を登ってでも、ビジネスを見つけたい」と述べ、「我々は、良いアイデアを見つけるのに非常に苦労しているので、どのアイデアも無視することはできない」と、バークシャーは米国内に限らず、海外企業への投資にも前向きであることを明らかにした。

 マンガーは現在の株式市場について「ほとんど投機マニア」になっていると指摘。「アルゴリズムが搭載されたコンピュータが、他のコンピュータを相手に取引をしている。

 株のことを何も知らない人たちが、さらに何も知らない証券マンにアドバイスをもらっている」と述べた。これに対してバフェットは、「でも、手数料のことは理解している」と冗談を飛ばした。

 インフレについての質問に対してバフェットは、「パンデミック時の大規模な刺激策が現在の物価上昇の主な原因」であると述べた。

「お金を大量に刷れば、お金の価値は下がる」と指摘したが、「私のセオリーでは、ジェイ・パウエルは英雄だ。とてもシンプルに彼は、やるべきことをやったのだ」と述べた。

 国際金融筋の大物とかDS(ディープステイト)の一人と言われるだけあって、MMT(現代貨幣理論)政策をおこなったジョー・バイデン政権やFRB(米連邦準備制度理事会)の行動についての批判はしていない。

 インフレは株式投資家を「だます」とした以前の発言について質問されたバフェットは、物価上昇の被害はそれよりもはるかに広範であると指摘した。「インフレは債券投資家をも欺く。マットレスの下に現金を置いている人も騙される。ほとんど全ての人を騙すのだ」と…。

 さらに「問題は、インフレがどの程度進行するかであり、その答えは誰にも分からない。」と述べ、インフレの行方を予測できると主張する人たちの意見に耳を傾けないよう注意を促した。バフェットは、「インフレに対する最良の防御策は自分自身のスキルに投資する」ことだと強調した。つまり、稼げということである。

 一方のマンガーは、インフレが高騰している中でどのような銘柄に投資するかという質問を受け、具体的な投資先は明らかにしなかったものの、投資しない場所としてビットコインを取り上げた。「自分の退職金口座を持っていて、親切なアドバイザーが全財産をビットコインに入れるように勧めてきたら、ノーと言えばいい」とコメントした。

 ビットコインについてはバフェットも同様の姿勢を示している。「来年、5年、10年の間に上がるか下がるかは分からない。しかし、ひとつだけ確かなことは、何も生み出さないということだ」とし、極端に安い価格でも買いたくないと述べた。そしてビットコインよりも具体的な価値を持つ資産として、農地、アパート、そして美術品などの実物資産を挙げた。

 なお、今回の総会においてバークシャーの会長兼CEOであるウォーレン・バフェットに対し、「会長職」の退任を求める株主提案が出され、その提案に米最大の公的年金基金カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)が賛同する方針を示していた。

 質疑応答の中でマンガーは、この案について「今まで聞いた中で最も馬鹿げた批判だ」とし、「オデッセウスがトロイの戦いなどに勝って帰ってきて、ある男が『あの戦いに勝ったときの槍の持ち方が気に入らない』と言うようなものだ。一度もビジネスをしたことがなく、何も知らない人が、こんな提案をするのはどうかと思う」と、手厳しく批判した。

 質疑応答の後行われた議案の採決において、バフェットに対して会長職からの退任を求める議案は否決された。