これほど短期間にバークシャー・ハサウェイが株を大量買いしたのは見たことがない!

 著名投資家ウォーレン・バフェットが率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の2022年第1四半期(1-3月期)株式の購入額は511億1900万ドルと、これまでの最高だった2018年第3四半期(7-9月期)の177億700万ドルを大幅に上回った。

 筆者もバフェットの動きを追ってきたが、これほど短期間にバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)が株を大量買いしたのは見たことがない。これはバフェットの「一世一代の大勝負」といえる金額である。

 これを受けて、バフェットが相場に対して強気転換したとか、相場の底打ちの兆しだとする報道が出ているが、勘違いもいいところであろう。バフェットが購入した株の大半(5分の4程度)は石油(エネルギー)関連株である。決して、相場全体に対して強気なわけではない。

 バフェットはポートフォリオを石油株に傾斜させてインフレ対応に動いている。現金から株に資金を移したもう一つの理由は、これから数年のうちに到来しそうな米ドル(現金)の劣化に対するヘッジであろう。

NY原油CFD(日足)

(赤↑:買いシグナル・黄↓:売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

オクシデンタル・ペトロリアム(日足)

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

シェブロン(日足)

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

 以下の表は、バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)がSEC(米証券取引委員会)に提出した2022年3月末時点のフォーム13Fと前回2月14日に発表された2021年12月末時点との保有株式を比較したものである。

バークシャー・ハサウェイの保有する米上場株式(緑:新規投資  赤:売却)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 今回公開されたフォーム13Fによると、マイクロソフトが買収する予定のゲームソフト大手アクティビジョン・ブリザード(ATVI)へ追加投資した他、パソコンメーカーのHP(HPQ)、自動車販売店やその顧客に金融サービスや保険商品を販売するアライ・ファイナンシャル(ALLY)、石油化学製品・プラスチック製品などを製造するセラニーズコーポレーション(CE)などの株式を新たに取得した。

 こうした投資により、2021年末時点で過去最高に近い水準にあったバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の手元資金は今年3月末時点で1063億ドルと、昨年末時点の1467億ドルから、約400億ドル減少した。

バークシャー・ハサウェイの現金ポジションとNYダウの推移

バークシャーの手元キャッシュが大幅に減少!
出所:決算資料より石原順作成

 一方、医薬品のアッヴィ(ABBV)ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMY)といったバイオ関連、さらには1989年から投資していたウェルズ・ファーゴ(WFC)を全て売却した。ウェルズ・ファーゴについては不正営業問題の発覚後、ほぼ持高を減らしていたが、今回全株式を手放した。

「インフレに対する最良の防御策は、自分自身のスキルに投資すること」(バフェット)

 投資家のためのウッドストックと呼ばれるバークシャーの年次総会が先月末開かれた。今回の総会は3年ぶりにリアルでの開催となり、世界中から多くのバークシャー株主が集った。

 CNBCの記事「Warren Buffett says inflation ‘swindles almost everybody,’ Munger rails against bitcoin, market ‘mania’ at Berkshire meeting(バークシャーの総会において、ウォーレン・バフェットはインフレが「ほぼ全員をだます」と述べ、マンガーはビットコインと市場の「マニア」を批判)」から、総会の様子を簡単に振り返る。

 バフェットが永年のビジネスパートナーであるマンガーと共に会場のステージに登場すると株主から大きな拍手が湧き起こった。

 バフェットは冒頭「ここに戻ってくることができて気分がいい」と述べ、「私たち2人(バフェットとマンガー)の年齢を合計すると190歳だ。もしあなたが会社のオーナーで、98歳と91歳が会社を経営しているのなら、実際に2人の姿を見ておかなくちゃならない」とジョークで株主を迎えた。

 バークシャー・ハサウェイの年次総会の始まりはいたって質素なものだったという。地元のオマハ・ワールド・ヘラルド紙によると、ウォーレン・バフェットがオマハで総会を開催するようになって最初の数年間は参加者がわずか10人程度だった。

 そこから徐々に人数が増え、1985年には250人、1989年には1000人、1996年には5000人が総会に参加するようになり、2000年代に入って数万人が参加する一大イベントとなる。このためオマハは、ビジネスと金融の世界の人々の「巡礼の地」とされている。

 今回の総会にはJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが初めて参加した他、マイクロソフトが買収したアクティビジョンのCEOやアップルのティム・クックCEOも出席していたとのこと。

 総会の目玉はバフェットとマンガーが長時間にわたり株主からの質問に直接答えるQAと長老2人の丁々発止のやりとりである。今回の質疑応答は5時間近くに及び、その中で彼らの投資哲学をうかがえる話がいくつかあった。

 バフェットは3月中のわずか2週間で、石油大手オクシデンタル・ペトロリアムの14%を取得、その価値は70億ドル以上に及ぶ。

 これについてバフェット氏は「2週間で、何十年も続いている事業の14%を買うことができた」と語り、「ギャンブル精神」にあおられた今年初めの短期的な変動が、長期的な良い機会を見つけることを可能にしたと述べた。

 しかしその一方で、投資する企業を見つけるのに「とても苦労している」とも語った。「どんな代償を払ってでも、どんな坂を登ってでも、ビジネスを見つけたい」と述べ、「我々は、良いアイデアを見つけるのに非常に苦労しているので、どのアイデアも無視することはできない」と、バークシャーは米国内に限らず、海外企業への投資にも前向きであることを明らかにした。

 マンガーは現在の株式市場について「ほとんど投機マニア」になっていると指摘。「アルゴリズムが搭載されたコンピュータが、他のコンピュータを相手に取引をしている。

 株のことを何も知らない人たちが、さらに何も知らない証券マンにアドバイスをもらっている」と述べた。これに対してバフェットは、「でも、手数料のことは理解している」と冗談を飛ばした。

 インフレについての質問に対してバフェットは、「パンデミック時の大規模な刺激策が現在の物価上昇の主な原因」であると述べた。

「お金を大量に刷れば、お金の価値は下がる」と指摘したが、「私のセオリーでは、ジェイ・パウエルは英雄だ。とてもシンプルに彼は、やるべきことをやったのだ」と述べた。

 国際金融筋の大物とかDS(ディープステイト)の一人と言われるだけあって、MMT(現代貨幣理論)政策をおこなったジョー・バイデン政権やFRB(米連邦準備制度理事会)の行動についての批判はしていない。

 インフレは株式投資家を「だます」とした以前の発言について質問されたバフェットは、物価上昇の被害はそれよりもはるかに広範であると指摘した。「インフレは債券投資家をも欺く。マットレスの下に現金を置いている人も騙される。ほとんど全ての人を騙すのだ」と…。

 さらに「問題は、インフレがどの程度進行するかであり、その答えは誰にも分からない。」と述べ、インフレの行方を予測できると主張する人たちの意見に耳を傾けないよう注意を促した。バフェットは、「インフレに対する最良の防御策は自分自身のスキルに投資する」ことだと強調した。つまり、稼げということである。

 一方のマンガーは、インフレが高騰している中でどのような銘柄に投資するかという質問を受け、具体的な投資先は明らかにしなかったものの、投資しない場所としてビットコインを取り上げた。「自分の退職金口座を持っていて、親切なアドバイザーが全財産をビットコインに入れるように勧めてきたら、ノーと言えばいい」とコメントした。

 ビットコインについてはバフェットも同様の姿勢を示している。「来年、5年、10年の間に上がるか下がるかは分からない。しかし、ひとつだけ確かなことは、何も生み出さないということだ」とし、極端に安い価格でも買いたくないと述べた。そしてビットコインよりも具体的な価値を持つ資産として、農地、アパート、そして美術品などの実物資産を挙げた。

 なお、今回の総会においてバークシャーの会長兼CEOであるウォーレン・バフェットに対し、「会長職」の退任を求める株主提案が出され、その提案に米最大の公的年金基金カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)が賛同する方針を示していた。

 質疑応答の中でマンガーは、この案について「今まで聞いた中で最も馬鹿げた批判だ」とし、「オデッセウスがトロイの戦いなどに勝って帰ってきて、ある男が『あの戦いに勝ったときの槍の持ち方が気に入らない』と言うようなものだ。一度もビジネスをしたことがなく、何も知らない人が、こんな提案をするのはどうかと思う」と、手厳しく批判した。

 質疑応答の後行われた議案の採決において、バフェットに対して会長職からの退任を求める議案は否決された。

石油株への投資を増やしているのは本格的なインフレ時代の到来なのか?

 バークシャーのフォーム13Fに話を戻そう。次の表はバークシャーの保有株トップ30(時価評価ベース)である。トップは前回同様アップル(AAPL)で、その評価額は1,555億ドル、ポートフォリオに対する比率は約43%となっている。

 以下、バンク・オブ・アメリカ(BAC)アメリカン・エキスプレス(AXP)と続く。ここまでは前回と同じであるが、4位にシェブロン(CVX)が上位に顔を出した。

バークシャー・ハサウェイの保有株トップ30(2022年3月末時点の13Fより)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 バークシャーは石油株への投資を積み増している。シェブロンだけではない、2月下旬に投資を始めたオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)を買い増し、その時価評価額は77億3780万ドル、オキシデンタルはバークシャーの保有上場株で上位8位に入った。

 過去のデータによれば消費者物価の上昇期に最高の実績を上げるのはエネルギー株であることがわかっている。

 ブルームバーグの記事「インフレ不安高まる中の株式投資-ゴールドマンやソシエテのお勧めは」によると、「エネルギー株は過去50年にわたり一貫して高インフレ時の勝ち組だった」(ネッド・デービス・リサーチの調査結果)という。

原油のスーパーサイクルとそのドライバー

出所:JPモルガンの資料より石原順作成

 JPモルガン証券は昨年、「世界は次のコモディティのスーパーサイクルに突入した」という予測を明らかにした。コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘した。

 過去100年間で大まかに4回のコモディティスーパーサイクルがあったといわれている。前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(12年の収縮後)に底を打ち、新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったというものだ。

 1996年からのスーパーサイクルをけん引した重要なドライバーは、中国を含む新興国の経済的な台頭であった。当時、米ドルは弱含んでおり、資産運用会社はポートフォリオを分散させるためにコモディティへのエクスポージャーを追加するケースが増えていた。

 その後、2008年の世界的な景気後退は、欧州(2011年)と中国(2015年)のさらなる減速と相まって、コモディティ価格を下押しし、トランプ政権時代の「貿易戦争」やそれに続く世界的な製造業の不況、そして2020年には原油価格を史上初めてマイナスの領域に送り込んだ悲惨なパンデミックを経て、12年続いたダウンサイクル(価格下落サイクル)の終わりを告げたとしている。

 バフェットが石油株へのエクスポージャーを爆発的に増やしているのは、本格的なインフレ時代が到来していることの表れなのかもしれない。

 バフェットは世間で言われているような「長期投資家」でも「ほったらかし(バイアンドホールド)」の投資家でもない。

 マーケットエッセンシャル主筆の前田昌孝さんの調査では、「バフェットはバリュー株重視の長期投資家とのイメージが強いが、実際は投資した銘柄の株価の値動きが鈍ければ、さっさと見切る「短気投資家」の側面もある。

 グラフに示すように、現在保有中の46銘柄(リバティーメディアの種類株を別々に数えれば48銘柄)を含むこれまでの投資先187銘柄のうち過半の103銘柄は保有期間が3年以内だ。中でも46銘柄は1年も持っていない」のである。

バークシャー・ハサウェイの保有期間別銘柄数

出所:マーケットエッセンシャル(前田昌孝)

バークシャー・ハサウェイB株(日足)

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

「大幅なドローダウン(運用成績の大幅な落ち込み)を防ぐための管理とは、ダウンサイドの大部分を捕捉することを防ぐために、アップサイドの一部を放棄することを意味する。ポートフォリオはいつか元の状態に戻るかもしれないが、その間に失った貴重な時間は決して取り戻すことはできない」

(ポール・チューダー・ジョーンズ)

 デービッド・ライトのファンド、「シエラ・タクティカル・オール・アセット・ファンド」は、世界金融危機で市場がパニックに陥った2008年も損失をほとんど出さなかった。コロナウイルスが相場を直撃した2020年の損失も比較的小さかった。

 約20年前のドットコム・バブル崩壊時にも、ライトが運営する別のファンドは損失を免れたという。しかし、「これらの時代とこれから先の相場展開は比べ物にならない」とライトは述べている。

「私の人生で最大の弱気相場に入っていると思う。野球に例えるなら今は2回の途中だ。まだまだこれからだ。若い人は相場下落がどんなものか、何が原因でどこまで下がり得るか想像もつかないだろう。

(デービッド・ライト)

 結局、「相場はタイミングが全て」である。3年連続で10%のリターンを得た後、たった10%のドローダウンで年平均複利成長率は50%も低下する。

 さらに、その後、必要な平均収益率を回復するためには、30%のリターンが必要となる。「平均」と「実質」のリターンには大きな差がある。損失の影響は、年率換算したお金の「複利効果」を吹き飛ばしてしまうのである。

S&P500指数と歴史的なイベント
(黒:S&P500指数 緑:成長トレンド)

出所:リアルインヴェストメントアドバイス

 多くの人が「バイアンドホールド(ほったらかし)」投資が長期的に有効であると指摘しているが、ほとんどの場合、その期間は定年までのおよそ15年から20年である。

 ここにその問題がある。歴史上、10年間のリターンがマイナスになった時期が複数ある。「バイアンドホールド」投資はうまくいくが、それは投資を始める時期(タイミング)によるのである。

「株取引には、楽に金がもうかるといった印象があり、人を魅了するが、愚かで安易な考えから相場に手を出せば、簡単にすべてを失ってしまう。無知の対極にある知識は、大きな力となる。 無知を警戒せよ。学習、研究をしっかりおこなうこと。遊び半分ではなく、本腰を入れて取り組まなければならない。相場の動きを漫然と「期待して待つ」のは博打であり、忍耐強く待ち、シグナルを見いだした瞬間「反応する」のが投資・投機である。現金をもたない相場師は、在庫をもたない小売商と同じで、相場師としての命脈は保てない」

(ジェシー・リバモア)

ドル/円相場は次のトレンド待ち

 日本銀行は10年物国債利回りが0.25%を超えないようにするため、国債を爆買いしなければならない。この金融操縦(人為的な価格操作)の副作用として、日本円の価値の下落が続いている。

 足元のドル/円相場は投機筋の円売りポジションがたまりすぎたため、足踏み状態にある。下のチャートの標準偏差ボラティリティ(水色のライン)とADX(黄色のライン)はピークアウトして下落中であり、現在は典型的な調整(ランダム)相場となっている。

ドル/円(日足)

(赤↑:買いシグナル・黄↓:売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 相場に方向性が出てくると、標準偏差ボラティリティとADX(アベレージ・ディクショナル・インデックス)が上昇する。標準偏差ボラティリティとADXが低い位置から上昇する場合は、相場が保ち合いを離れ、強い方向性をもつシグナルとなる。

 一方、標準偏差ボラティリティとADXがピークアウト(天井をつけ下落)すると、トレンド期とはやや逆方向にバイアスがかかった「横ばいレンジ内での乱高下相場」となりやすい。

 現在のドル/円相場は、次のトレンド待ちの状況だ。

5月18日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 5月18日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、荒地潤さん(楽天証券FXアナリスト)をゲストにお招きして、「ラガルドは誰の利益のために動いているのか?欧州の利益なのか?それとも米国の利益なのか?誰がECB を支配しているのか?欧州人か?それとも米国のFRBと財務省なのか?」・「ドル/円相場の見通しは!?」・「市場は傷んでいる。多くの人が大した問題ではないとおもっているが、資産防衛に重きを置く時期に入っている」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
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出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。

5月18日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube