金融の言葉で説明

 ただ、実は、これらの問題は「古くて新しい」というか「新しいが古典的」な問題がいくつか絡み合っているだけで、それらをひもとくと、金融界で今まで何度も繰り返されてきた問題に行きつく。以下では、金融界で何度も繰り返されてきた事件を例に、今回の出来事の説明を試みたい。

サブプライムショック

 商品を複雑にし、レバレッジをかけ、最後は何のリスクを取っているのか、ウォール街の専門家でさえ分からなくなってしまった代表例がサブプライム問題とリーマンショックだ。そこまでいかなくとも、銀行はあれこれと複雑なデリバティブ商品を組成しては、少しでも手数料収入を高くしようと試みる。

取り付け騒ぎ

 さらにUSTはAnchorという専用のDeFiで、2021年3月から年利20%近くの利回りで資金を調達していた。私が本邦銀行の大阪支店で預金集めをしていたころ、担当地区の信用組合が高金利商で預金を集めていて、お客さんにお宅の金利は安いと嫌味を言われていたが、東京の信組が破綻した後、同組合でも取り付け騒ぎが発生、外訪中に目のあたりにした。

ポンジスキーム

 DeFiには将来性や可能性が大きく、交換所に納めていた手数料を参加者で分配するなど優れた仕組みもあるが、先にお金を払えば、後から払う人のお金の一部がもらえる、といったスキームに近いものもあるようだ。

ドルペッグ

 ステーブルコインについても誤解が大きい。「お金」の本質は信用で、裏付けとしてお金を預けているか否かはあまり関係ない。ステーブルコインがステーブルであるためには「ドル(法定通貨)にペッグ」していると信用されることが重要で、それは一定の価格で誰かが無制限に介入して守ってくれるという信用だ。これは為替を長くやっていれば自明なことだ。

イングランド銀行を負かした男

 そして、このペッグ価格は常に投機筋に狙われてきた。ブレトンウッズ体制では何度も破られたし、英国がユーロに参加していないのはジョージ・ソロスにユーロ参加国通貨とのペッグを破られたからだ。

アジア通貨危機

 そして、その通貨を買い支える介入資金が足りないことが知られると投機筋の餌食となる。アジア通貨危機もタイバーツの外貨準備がスワップで水増しされていることが市場にばれたことがきっかけだった。

自転車操業

 こうした歴史を踏まえて、今回のUST事件を捉えると、意図的か意図的でないにせよ、複雑なスキームでリスクを分かりにくくしてお金を集めようとしたこと、高利回りで自転車操業に近い形で資金を集めていた時点で、このプロジェクトの安全性は脆弱(ぜいじゃく)だった。

ハイリスク運用

 さらに、ステーブルコインのペッグを守る、よりどころとなるLUNAの準備資金をBTCで運用してしまった。その値上がり益で準備不足を補おうとしたのか、その意図は分からないが、高金利でお金を集めて一発逆転のハイリスク運用をして、その運用に失敗して信用不安を引き起こし、最後は取り付け騒ぎに陥(おちい)るケースを我々は嫌というほど見てきた。