一本調子の円安には向かわない?相場環境の変化とは

 先週発表された米国4月CPI(消費者物価指数)は前年比+8.3%、前月比+0.3%と予想を上回ったことから米長期金利が上昇し、ドル/円は130.80円を超えましたが、物価水準は高水準ながらも伸びが前月から鈍化したことや材料出尽くしから長期金利が低下するとともに、ドル/円も129円台に再び下落しました。

 その後は米長期金利も落ち着きを取り戻したことやクロス円の売りなどから、円売りのポジション調整が続いているような動きとなっています。

 また、北欧2国のNATO(北大西洋条約機構)意向表明によってロシアとの対立激化から世界景気後退懸念が強まり、クロス円は総じて頭が重たい展開となっています。

 加えて、今週16日(月)に発表された中国の4月鉱工業生産と小売売上高が予想を大きく下回り、悪化したことからクロス円が売られ、特に中国との取引が多いオセアニア通貨が弱く、豪ドル/円、NZドル/円は売られました。

 ドル/円を取り巻く相場環境は少し変わってきたようです。

 まず、円安を加速させた米長期金利の急上昇は落ち着きを取り戻してきたようです。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ加速姿勢に過剰に反応し、米10年債利回りは一時3.20%台にのせるような急上昇がみられましたが、ここにきて落ち着きを取り戻し、3%以下で推移しています。

 また、大幅な連続利上げが嫌気され米株が続落する中、13日(金)に発表された 5月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)が予想を下回り、2011年8月以来の低水準を更新しました。

 1年後のインフレ期待も予想を下回りました。また、16日(月)に発表された5月のNY連邦準備銀行製造業景気指数も予想を大きく下回り、この3カ月の間で2回のマイナスとなりました。

 この2つの指標を受けて米景気悪化が意識され始めています。17日(火)に発表された米4月小売売上高は+0.9%と4カ月連続のプラスとなり、物価高でも消費は堅調と市場に安心感を与えましたが、一方で3月の消費者信用残高が伸びている点に留意する必要があります。

 この指標はローンなどの借り入れによる個人消費の動向を示しています。クレジットカードなどの「リボルビング払い」ローンが前月の+16.2%を上回り、+35.3%と急増し、1998年4月以来の伸び率となっています。

 堅調な消費が借り入れに裏付けされた消費だとすると、利上げは今後の借り入れに影響し、消費に影響することが予想されます。今後も利上げは続くとなれば、利上げはじわじわと米国景気に影響してくることが予想されます。

 ウクライナ情勢は長期戦になるとの見方が強まる中、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟申請によって第2幕が始まろうとしています。

 NATO加盟には30カ国全ての加盟国の承認が必要ですが、トルコが難色を示しているため説得には時間がかかるかもしれません。もし、加盟承認となれば、欧州で新たな地政学リスクが高まることも予想されるため警戒する必要があります。

 そして中国のゼロコロナ政策による世界景気悪化懸念が現実のものとなってきたことを中国の4月鉱工業生産や小売売上高によって認識させられました。

 中国の4月鉱工業生産はプラス予想(0.4%)に反し、前年比▲2.9%と2年1カ月ぶりにマイナスとなり、前月(5.0%)から大きく低下しました。2年1カ月ぶりとは、中国経済が初めて新型コロナの打撃を受けた2020年1~2月(前年比▲13.5%)以来の下げ幅となったということです。

 主力の自動車の生産量は前年比で43.5%減り、地域別では上海市を含む長江デルタ地域が14.1%減となりました。

 また、小売売上高は前年比▲11.1%と2カ月連続のマイナスとなり、マイナス幅も前月(▲3.5%)から大きく拡大しました。マイナス幅は、やはり、初めてコロナの影響を受けた2020年3月(▲15.8%)以来の大きさとなりました。

 厳格な「ゼロコロナ政策」による都市封鎖の影響の大きさが鮮明になってきました。世界第2位の経済大国である中国経済の失速は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受ける世界経済にさらなる打撃を与えそうです。

 16日(月)、上海市は6月中に「正常な生産と生活を全面的に回復する」との方針を示しました。実質的な都市封鎖解除ですが、段階的解除であるため中国経済がどの程度回復するのか注目です。

 これらの環境変化は、ドル/円を3、4月のような一本調子の円安には向かわせないかもしれません。しばらくは、先週の131.35円、先日の131.25円を2番天井として意識させる動きとなる可能性があります。