「トラの首の鈴はつないだ人でないとほどけない」

 最後に残ったのが(5)です。

 中国の習近平主席がロシアのプーチン大統領を説得して戦争を止めさせる以外に道はない。

 中国研究を専門にしているとはいえ、専門にしてきたからこそ、そんな安易な結論を下すつもりはありません。国益、権力、民族、宗教、地理、資源、歴史、経済、軍事、指導者の世界観…などが複雑に絡み合う国際政治とはそんな単純な構造ではないのです。

 一方で、(5)が「仲介役」となり、(4)を結実させるというのは現実的であり、休戦に向けた数少ないアプローチのように私には思えます。中国の外交官が指摘するように、中国は、ウクライナ危機を解決する上で鍵を握る全てをもち、また関係諸国との対話ルートを持ち、それらに働きかけることができる数少ない国家です。

 参考までに、この1カ月、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は電話、ビデオ、対面を通じてカウンターパート(外相レベル)と計25回の会談に臨んできました。日時が早い国(EU含む)から順に列記してみましょう。

 ロシア、EU、フランス、英国、ドイツ、韓国、ソマリア、ウクライナ、イラン、米国、ハンガリー、EU、パキスタン、フランス、イタリア、スペイン、インドネシア、オランダ、イラン、ザンビア、アルジェリア、タンザニア、パキスタン、ソマリア、エジプト。

 戦争を終わらせるため、ロシアとウクライナという当事者のほか、鍵を握るフランスやドイツ、米国といった国とも会談をし、欧州の安全保障という文脈でEUとも2回行っています。

 極め付きは3月18日夜(北京時間)に約2時間行われた習近平(シー・ジンピン)主席とバイデン大統領による米中首脳会談です。バイデン氏は、中国がロシアへの「支援」を止めなければ、米国は中国に対しても制裁を科す可能性を否定しない、という立場を表明したのに対し、習氏は「得意」のことわざで反撃しました。

「1つの手のひらだけでは鳴らない(トラブルには必ず双方に責任がある)」

「トラの首の鈴はつないだ人でないとほどけない(面倒は引き起こした当人が解決するよりほかない)」

 習氏が言いたいのは、端的に言えば「米国にも責任がある」ということです。冷戦初期(1949年)に結成されたNATOは、ソ連崩壊や冷戦終結後、5回にわたって拡大し、ロシアにとって安全保障をおびやかす深刻な脅威になってきた。それを主導してきたのが米国である。米国はトラブルに加担し、面倒を引き起こした当事者の一人だということ。今回はNATO拡大の6回目、しかもロシアと国境を接し、ロシアにとっての「祖先」であるキーウに首都を置くウクライナがNATOに加盟することを、ロシアは断じて受け入れない、という主張です。

 プーチン氏にとって、ウクライナとは国家の命運と民族の盛衰を賭けた「核心的利益」。つまり、武力を行使してでも死守しなければならない利益ということです。

 習氏はそう考え、バイデン氏に対し二つのことわざを披露したのでしょう。戦争を終わらせるためには、NATOが(特に米国が)、プーチン氏の(ロシアの)「安全」を確保してあげないといけない。あなたは歩み寄らなければならない。そのために自分はここにいて、あなたに告げている。1カ月前、プーチン氏に対して告げたように、と。

 習氏率いる中国共産党指導部は、「ロシア寄りの中立」という立場を堅持しつつ、引き続きロシア、ウクライナ、米国、欧州といった国の首脳に働きかけることで、(4)を促そうとするでしょう。

 戦争を終わらせるという観点からすれば、これからの2週間が鍵を握ります。間もなく、バイデン大統領がブリュッセルに向けて飛びます。NATOサミットやG7(主要7カ国)首脳会議に出席します。そして、4月1日には中国・EUサミットが予定されています。当事者、および関連諸国、特に大国間での話し合いを通じて、平和再構築への道筋が示されるか否か。また報告します。