為替DI:3月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありません。しかし、アンケートに個人投資家の相場観が正確に反映されているならば、DIの「多さ」は「強さ」に関係することになります。

「3月のドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

 楽天証券が先月末に実施した相場アンケート調査によると、4,509人の個人投資家の45%(2,050人)が、今月のドル/円は「ドル高/円安」に動くと予想しています。2月に比べて円安見通しは6ポイント減りました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

ドル安/円高」予想は全体の25%(1,116人)で、先月に比べて円高見通しは6ポイント増えました。30%(1,343人)は、「変わらず(わからない)」でした。

2022年2月ドル/円市況

 2022年2月の終値は、1月末に比べて0.16円の円高でした。レンジは114.15円から116.34円で、値幅は2.19円(1月は2.88円)。

 2月は115.10円からスタート。マーケットのテーマはオミクロン感染拡大からFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策へと移り、パウエルFRB議長は、1月に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、「現在の米国経済は、前回(2015年から2018年)の利上げサイクルの時よりも強い」との認識を示しました。「米経済成長はより速く、労働市場はより強く、インフレはより高く」ということです。

 したがってFRB金融政策の「利上げスピードはより速く、より大きく。さらにバランスシート縮小はより早く」ということになります。マーケットではFOMCの3月利上げが当然であるばかりか、その幅は0.25%ではなく倍の0.5%になるとの思惑が広がりました。

 日米の金利差拡大を理由に再び116円を目指したドル/円でしたが、FOMCメンバーによるマーケットの「過剰な先走り」に対するけん制発言に押し戻されて114.15円まで下落。これが2月の安値となりました。

 10日に発表された米国の2月CPI(消費者物価指数)は、前年比+7.5%と大きく上昇しました。米国のインフレは落ち着くどころか、勢いが止まらない状況で、3月大幅利上げの見方が再び強まるなかで米長期金利が上昇。

 一方日本では、長期金利の上昇を抑制する「指値オペ」を日本銀行が実施。異次元の超緩和政策を断固続ける姿勢を示したことも円安材料となって、116.34円まで上昇。1月4日につけた年初来高値(116.35円)にほぼ並ぶところまでいきましたが、追い越すことはできずに終わりました。

ウクライナ事変

 2月後半からは地政学リスクが相場を支配することになりました。プーチン大統領のロシア軍は24日、ウクライナに軍事侵攻を開始。投資家のリスク回避姿勢が強まるなかで、114.40円まで円高に動きましたが2月の安値(114.15円)を更新することはありませんでした。

 米国と欧州は2月26日、ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する制裁措置として、ロシアの一部銀行をSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication,国際銀行間通信協会)から排除することを決定しました。

 SWIFTは、送金情報を電子的に伝達するシステムで、200余りの国・地域の1万1,000社以上の金融機関などが参加する国際送金の標準手段。このシステムを利用できなくなると貿易決済などに重大な支障をきたし、ロシア経済は深刻なダメージを受けることになります。

 バイデン米政権は28日、制裁の対象をさらに広げ、ロシア中央銀行がFRBやG7の中央銀行に持つドル資産を凍結すると発表。これによってロシアの外貨準備の80%以上が差し押さえられることになり、ロシア中銀はルーブル安を止めるための為替介入の手段を奪われます。ルーブル暴落はロシアのインフレ急上昇を招くため、ロシア経済にとってはさらなる打撃です。

なぜドル/円は円高にならないのか?

 円は「セーフヘブン(安全資産)」通貨と呼ばれ、地政学リスクやそれに連動した株価の大幅下落で投資家が消極的になる、いわゆるリスクオフのマーケットではマネーの逃避先として円が買われることが多いです。

 しかし、今回のウクライナ事変(宣戦布告なしの戦争状態)では、ドル/円は114円台後半にとどまっています。今年の相場水準的には「中立」、少なくとも「円高相場」ではない。なぜドル/円は円高にならないのでしょうか?

 その理由のひとつは、ウクライナ戦争がエネルギー価格の高騰を引き起こしているからです。ロシアは世界の原油生産の約1割を占めますが、欧米の経済制裁によってロシアのエネルギー輸出が停滞する可能性が高くなっています。

 NY原油先物は一時116ドルを超え、リーマン・ショック直後の2008年9月以来13年ぶりの高値をつけました。ちなみに当時のドル/円レートは現在よりも10円も円高の105円台なので、円貨ベースで比較すると当時よりも今はさらに原油高ということになります。

 エネルギー輸入大国の日本は、石油購入のためのドルを手当てする必要性が高まるなかで輸入企業のドル買いが円高を食い止めていると考えられます。

 もうひとつは米長期金利です。リスクオフで米10年債利回りが1.70%を割る場面もありましたが、FRBのハト派転向を期待するのは禁物です。インフレ問題がある限り、FRBの利上げ方針は変わりません。

 FRB高官は、ウクライナ戦争を理由に利上げを見送る可能性はないと発言しています。地政学リスクに対峙(たいじ)する欧州のECB(欧州中央銀行)とFRBの金融政策のかい離にも注目です。

 楽天DIでは、ドル/円の円安予想が多かった一方、ユーロ/円では円高(ユーロ安)予想が多く、地政学リスクから離れている豪ドルの見通しが中立だったのは、投資家がこのような背景を理解しているからだと思います。

 楽天証券が実施した相場アンケート調査によると、個人投資家の42%が3月のユーロ/円は「ユーロ安/円高」に動くと予想。ユーロ安見通しは、先月から25ポイント増えました。

 ウクライナ戦争でユーロ安見通しを強めた投資家が増えました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

ユーロ高/円安」予想は27%で、先月から6ポイント減りました。全体の31%は「変わらず(わからない)」でした。

 楽天証券が実施した相場アンケート調査によると、個人投資家の29%が3月の豪ドル/円は「豪ドル高/円安」に動くと予想。

 豪ドル高見通しは、先月から1ポイント増えました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

豪ドル安/円高」予想は19%で、先月から4ポイント増えました。

 全体の52%は「変わらず(わからない)」でした。

 ユーロ/円に比べると、豪ドル/円の見通しには、ウクライナの地政学リスクの影響はほとんどありません。