ウクライナ関連銘柄、騰勢を強める

 金(ゴールド)相場の上昇について、その背景について理解を深め、今後の動向を考えるために、足元で変動が目立っている銘柄に注目します。以下は、ウクライナ侵攻の前日(2月23日)と3月4日の比較です。

図:ウクライナ侵攻前(2月23日)と3月4日の比較

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 欧州の天然ガス、原油などのエネルギー、小麦、トウモロコシ、菜種などの農産物、パラジウム、ニッケル、アルミニウムなどの金属といった、「ウクライナ情勢関連銘柄」の上昇率が高いことがわかります。また、バルチック海運指数、温室効果ガス排出権の下落率が高いこともわかります。

 下落が目立つ、2銘柄も「ウクライナ情勢関連銘柄」であると、筆者は考えています。上昇・下落が目立つこれらの銘柄と「ウクライナ情勢」との関わりは以下のとおりです。

図:「ウクライナ関連銘柄」価格変動の背景

出所:筆者作成

「ウクライナ情勢の悪化」をきっかけに、原発活用リスク、ロシア依存リスク、脱炭素否定論、資源の武器利用、同一カテゴリー内での類似商品高など、さまざまなテーマが浮上し、関連する銘柄の価格が動いているわけです。

 前回の「原油 急騰止まらず。13年半ぶり高値。5つの懸念が導く」で述べたとおり、原油については以下の図で示した「5つの供給減少懸念」が「同時発生」していることが、価格上昇の主因であると、考えています。

図:「ウクライナ有事」激化がもたらす原油に関わる「5つの供給減少懸念」

出所:筆者作成

 足元の原油価格急騰の「真の要因」は、「制裁」と「ガバナンス重視」がもたらす供給減少懸念、つまり、キーワード2「主要国がロシアに対し制裁発動」とキーワード3「主要エネルギー企業がガバナンスを重視」起因の合計3つの供給減少懸念であると、考えています。これらが強化されたタイミングから、原油相場の上昇が加速し始めたためです。

 合計3つの供給懸念とは、主要国によるさまざまな制裁への対抗措置として、ロシアが意図的にエネルギーの供給量を減少させること、国際的な銀行決済システムからロシアの主要銀行が排除されることで、世界のさまざまな国がロシア産のエネルギーを購入しにくくなること、ガバナンス(企業統治)を重視した主要なエネルギー企業がロシアでのビジネスから相次いで撤退し、ロシアのエネルギー産業が縮小する(=エネルギー生産量が減少する)ことです。

 原油相場が上昇すると、他のエネルギー関連銘柄も連れ高となったり(天然ガス、石炭上昇)、それに伴い、発電コストが上昇して、精錬の際に電力を多用するアルミニウム価格が上昇したり、ニッケルなどが連れ高となったりします。

 また、今回の混乱の当事国であるロシアは、「資源を武器」に用いることがしばしばあります。自国の流通量を確保するために「関税を引き上げる」(穀物など)、欧州向けのエネルギーのパイプラインの「封鎖を示唆する」などです。

 ロシアにとって、こうした「資源の武器利用」は、資源国という特徴を生かした、政治上の駆け引きを有利に進めたりするための、常とう手段であるわけです。

 今回も、ロシアが主要な生産国である、天然ガス、原油、小麦、アルミニウムなどを武器として利用する懸念があります。欧米諸国が行っている制裁に対抗し、こうした品目の輸出量を意図的に減らす可能性があります。

 もっとも、銀行決済機構からのロシア排除が進んだり、さまざまな企業がガバナンス(企業統治)を優先して戦争を引き起こした国から意図的に物を買わなくなったりすることが想定されるため、ロシアによる「資源の武器利用」の効果は限定的なものになる可能性はあります。しかし、流通量の減少(減少懸念を含む)は価格上昇要因になり得るため、注意が必要です。