本当は配当よりも自社株買いの方が、株主にとってのメリットは大きい

 それでは、発表された自社株買いが、株主にどのくらいのメリットがあるか、おおよその見当をつける方法を、お教えします。

 発表された自社株買いが、すべて実行されるとした場合、発行済株式数が何%減るのか、見ると良いです。

 具体例を見てみましょう。以下は、2021年11月15日に発表された、三菱UFJ FG(8306)の自社株買いの概要です。

(1)  取得する株式の種類:自社の普通株式
(2)  取得する株式の総数:3億株(上限)(発行済株式総数に対する割合2.33%)
(3)  株式の取得価額の総額:1,500億円(上限)
(4)  取得期間:2021年11月16日から2022年3月31日
(5)  取得の方法 取引一任方式による市場買付

 ここで、一番注目していただきたいのは、私が赤の背景色で囲んだところ、「発行済株式総数に対する割合」です。2.33%です。上限株数を買い付けると、発行済株式総数が、2.33%減少します。ということは、1株当たり利益が、おおむね2.33%増えるわけです。

 つまり、PER(株価収益率)などの株価評価が変わらなければ、自社株買いで、1株当たり利益が2.33%増加し、株価が2.33%程度上がると期待することができるわけです。厳密に計算すると、もう少し異なる結果となりますが、ざっくりしたメリットの把握としては、上記でオーケーです。

 次に注目していただきたいのが、青の背景色で囲んだ「取得期間」と「取得の方法」です。「2021年11月16日から2022年3月31日」まで、「市場買付」とされています。つまり、「市場でじっくり買っていく」ということです。

 自社株取得枠で表示される金額は、あくまでも上限であって、それを本当にすべて買うかわかりません。予定通り、上限まで買う企業が多いとはいえ、株価変動によっては未消化のまま残す企業もあります。

 さて、三菱UFJ FGは自社株買いの他に、配当金も出しています。予想配当利回りは、2022年2月22日時点では、3.8%です。今期1株当たり配当金(会社予想)28円を、2月22日の株価730円で割って、配当利回りを計算しています。2.33%の自社株買いと3.8%の配当を合わせると、とても魅力的な株主還元と言えると思います。

 ところで、これはあり得ない話ですが、もし配当利回り4%の日本企業が配当金をゼロにして、配当原資をすべて自社株買いに使うとするとどうなるでしょう。配当はゼロになりますが、自社株買いによって1株当たり利益は4%増え、株価の理論値は4%上昇します。

 そこで、改めて問います。配当利回り4%で自社株買いをまったくしない企業と、配当ゼロで4%の自社株買いをする企業では、株主にとってどちらがありがたいでしょうか? 財務内容が良好な会社であることを前提とします。

 4%配当をもらうと配当金には課税されます。投資を続けるならば、配当金で再投資する必要が生じます。ところが、自社株買いをやって株価が4%上昇するだけなら、原則税金はかかりません。株主は利益確定の売りをするまで課税されずに複利の運用が続けられわけです。

 このように、突き詰めていくと、本当は配当よりも自社株買いの方が投資家にはメリットが大きいわけです。それがわかるだけに、米国の大手ハイテク企業は、「配当ゼロで株主還元はすべて自社株買いだけでやる」のが普通になっています。

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