自社株買いに積極姿勢に転じてきた日本企業

 日本の上場企業は近年、自社株買いに積極姿勢に転じてきています。コロナ前、1年間で10兆円近い自社株買いが発表されるようになっていました。コロナ禍に見舞われた2020年は手元キャッシュを増やすために自社株買いは減りましたが、コロナが完全に収束すればまた10兆円近い自社株買いが行われるようになると考えられます。

 これにはもちろん株主還元という意味もありますが、それだけではありません。企業の財務戦略として自社株買いが重要な選択肢となりつつあるからです。

 日本企業は昔から「社外へ出ていくお金を減らす」ことに熱心でした。バブル崩壊後の1990年代、多くの日本企業がもっとも熱心に取り組んだのは「借金返済」でした。当時の日本企業は、バブル時に膨らんだ巨額の借金をかかえている中、金利水準が高かったので、社外に出ていくお金を減らすには、借金返済がもっとも効果的でした。

 ところが近年は、状況ががらりと変わりました。日本企業には実質無借金も増えるなど、財務が格段に改善しました。それに加え、金利水準が大幅に低下しました。借金をさらに返済して金利負担を減らしても、社外に出ていくお金はあまり改善しなくなりました。

 そういう環境下で目立つのが、配当によるキャッシュアウトです。発行済株式数が大きくなっている企業では、配当負担がとても重くなっていました。

 そこで、借金返済ではなく、自社株買いをすることによって、社外に出ていくお金を減らすことを画策する企業も増えました。財務内容が良好で潤沢なキャッシュフローを有する日本企業は、財務戦略として自社買いを積極化する傾向があります。

 自社株買い規制の議論は、自社株買いが企業の財務戦略としても重要になってきていることが、ほとんど考慮されていないと思います。