業績相場への布石を打つ

 インフレ、FRBのタカ派姿勢、金利上昇、さらに株価テーマ別の下落順と一線越えなど、中間反落入りの兆候がそこかしこに出ています。後は淡々とアクションを起こすだけなのですが、実際には、サクッと逃げられない心理のワナがあります。

 長い上昇トレンドを経て含み益を得た投資家には、いつでも売り抜けられるかの慢心が生じがちです。相場が下がっても、「相場は持ち直すかも」という希望的観測が勝り、損切りを見送ってしまいがちです。さらに、含み損が大きくなるほど追加的な損失に対する痛みに鈍感になりがちで、あえて難平買いして損失の一発逆転を狙う衝動に駆られる人も。リスク削減すべき中間反落場面に、あえてリスク投資を増やしているのです。こうして適切な判断力がどんどん損なわれてしまいます。

 少々厳しい話かもしれませんが、後学のためにあえて申し上げます。フル資金で投資して含み損ポジションを抱え込むと、身動きとれないまま、思考停止せざるを得ない時間が続きます。投資に前向きに関わり続けるには、どうしたらよいでしょうか。まだ上がるかも、また戻るかも、といった希望的観測は誰にも湧き出るものです。

 しかし、具体的に反落リスク要因が確認されたら、上がる下がるの予想ではなく、その下落リスクの確率判定に基づいて売るものは売り、投資余力を確保するしかありません。

 投資余力としてのキャッシュが来る勝機、つまり業績相場へ布石を打つ原資です。

 長期投資で低コストのお宝ポジションを持つ投資家は、中間反落程度なら達観もできるでしょう。この達観も投資余力の内、中間反落期を通じて時間分散買いできるならそれも投資余力の内です。

 相場のピーク圏で「まだ上がるかも」、あるいは少し下げて「また戻るかも」という思いが燻(くすぶ)る時には、金融業者の専門家も「逃げ時」を案内するのは困難です。アドバイスが裏目に出てもうけ損なった場合に、顧客を取りなすのは非常に難しいのです。要は、逃げ時は誰も教えてくれないと心して、自ら売り逃げ方の予行イメージを持ち、相場変調リスクの兆しを確認したら、確率評価をして粛々と行動するのみです。

 金利上昇が進んで、業績相場が終息する時のリスクは、中間反落よりはるかに大きくなる恐れがあります。現在の金利見通しからは2024年以降でしょう。

 まずは目先の中間反落という中程度のピンチを、チャンスに変えるため、投資余力を確保し、業績相場への布石を整えるのが課題です。その上で、今回の教訓を業績相場終盤に生かすべく、心に留め置きましょう。

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