政治が消えた香港の行方は?外国人投資家の視点

 脱政治化を受けて、香港はどこへ向かうのか。それは中国全体にどのような影響を及ぼすのか。

 ここでは2点を議論したいと思います。

香港は中国返還50年の2047年を待たずしてデッドラインへ

 まず1点目。中国共産党は香港の政治を完全に変えてしまいました。

「英中共同声明」では香港返還、および「返還後50年は、香港はこれまで同様の政治制度を維持する」デッドラインである、2047年までのロードマップを規定していました。

 議会選挙によって、この「声明」がうたう「一国二制度」「高度な自治」はもはや形骸化し、中国共産党結党百周年にあたる2021年が、香港にとってデッドラインとなりました。

 そんな中、日本を含めた西側先進国グループG7(主要7カ国)の外相が声明を発表し、「香港特別行政区の選挙制度の民主的要素がむしばまれていることへの重大な懸念を表明する」と中国をけん制。今後、香港の政治状況をめぐり、中国と西側諸国の間の攻防は続いていくでしょう。香港問題は引き続き、「西側vs中国」の火種であり続けるということです。

「中国国際金融センター」としての香港の地位は維持される

 2点目が、質的に変化した香港政治が経済・市場・ビジネスにどんな影響を及ぼすのかです。この点に関しては、市場に参画する当事者たちの価値観や考え方によるところが大きくなると私は考えます。言論の自由が踏みにじられるような場所でビジネスはできないという人もいるでしょうし、政治と経済は分けて考えるべき、ビジネスがしっかりできれば関係ないという人もいるでしょう。

 中国共産党と香港政府は、脱政治化という新常態下においても、むしろ、だからこそ、香港は安全で、安定した、安心してビジネスができる場所になった、「香港国家安全維持法」や選挙制度の見直しを経て、国際金融センターとしての香港の価値はむしろ上がるのだと宣伝して回っています。

 株式市場への影響も注目です。最近、ニューヨーク市場への上場を取りやめ、香港に上場することを決定した配車アプリ大手・ディディ(DiDi:滴滴出行)の動きにも象徴されるように、今後、中国の有力企業は、まずは香港での上場を目指すでしょう。また、すでに米国に上場している中国企業も、香港で重複上場しようと動くでしょう。

 当局は、海外の投資家たちが、中国経済成長のうまみを、香港を通じて享受できる状況をつくろうとしているのです。

 そして、私が香港を拠点とする中国内外の金融関係者と議論する限り、中国人、香港人はいうまでもなく、欧米を中心に外国人ですら、次のような声がほとんどです。

「香港国家安全維持法」、選挙の見直しを経て、香港はビジネスがしやすい場所となった。そもそも、自分たちは、政治的自由を基準に香港を拠点としているわけではない。言語、地理、税制、インフラ、政府の効率性といったビジネスに直結する部分を総合的に判断した上で、香港を選んでいるのだ。

 香港で暮らす大多数の外国人は、香港の政治的状況に関心などない。ただそこで安心してビジネスをし、お金を稼げればいい。そう考えているように私には映ります。こんな人々が大多数を占めるのであれば、国際金融センターとしての香港の地位は、相当程度維持されるのでしょう。

 自由や民主主義を渇望する香港市民は、香港にとどまりながら黙り込むか、海外へ逃亡するかのどちらかである。その地で政治は消えてなくなり、お金の論理だけが空間を支配するようになる。中国共産党と香港政府はそんな新常態を歓迎している。私たちはどうなのか?

 当事者一人一人が、自らの生き方に基づいて判断、行動していく以外に道はないでしょう。