見直し後の選挙制度は「愛国」が前提、民主派は入り口から排除

 このような新常態(ニューノーマル)下で行われたのが今回の立法会選挙です。

 選挙制度の見直しで、どのような新ルールの下、今回の選挙が実施されたのかをおさらいしてみましょう。

 最大のキーワードは「愛国者治港」、すなわち「愛国者による香港統治」。中国共産党、およびそれに服従する香港政府が定義する「愛国」です。一言で言えば、中国共産党、およびその政治体制やイデオロギーに反対する人間は統治機構には入れないということです。

 入口で排除すべく、立候補者には香港政府国家安全委員会による審査と意見に基づき、香港政府の中に設けられた資格審査委員会で厳格な資格審査が施されることになりました。

 見直しの前後で立法会の議席がどう変化したのか、これも重要です。

 これまで立法会議員の定数は70で、うち業界別の職能枠35(うち民意が直接反映しやすい区議会枠6)、香港各地に設定されている選挙区の直接選挙枠が35という内訳でした。

 これが見直し案では、定数が90に増えました。業界別の職能枠が30に減り、民主派が優勢の区議会枠は撤廃、地区別の直接選挙枠を20に減らした上で、行政長官を選ぶための選挙委員会枠(民主派は皆無。全員親中派)が新たに40設けられたのです。

 立候補者への事前の資格審査、民主派を排除する議席の内訳を見れば、新ルールでの立法会選挙が、いわゆる「出来レース」と化すのは、そもそも目に見えていました。

 香港には実質、民主派を支持する有権者が6割を占めるといわれてきました。制度見直し後の今回の選挙では、正統な民主派候補者はゼロ。ですから、多くの民主派支持者は投票先がなく、同時に新たな選挙制度に無言の抗議を示すべく、多くの人が投票しないと想定されていました。実際、香港の知人たちのほとんどが「断じて投票には行かない」と漏らしていました。