政府の“介入”は何を意味するか?

 実際に、中国政府の恒大集団に対する認識や立場も新たな段階に入っているといえます。

 一部報道に、中国政府が恒大集団の債務処理に「ついに介入」し始めたという指摘がありますが、私から見ると違和感を覚えます。

 本連載で度々指摘してきたように、そもそも当初から、地方政府や金融機関に協力を求める形で、中央銀行と証券監督管理委員会という中央機関が、同社の債務処理を指導・監督してきたことは明白です。

 ただ、当局があからさまに表舞台に出て、同社を「救済」する、あるいは「破たん」に追い込むといった行動はできません。なぜならその行動は、同社が販売する住宅を購入した国内消費者、同社が発行した社債を持つ海外債権者にとっては「モラルハザード」と受け止められ、中央政府の政策や対処に疑問符が付けられる恐れがあったため。若干誇張した言い方をすれば、「介入」は当初から作用していたわけです。

 12月3日、恒大集団が香港証券取引所に対し「債務履行に必要な資金の確保を保証できない」と報告しました。これを受けて、同日、広東省人民政府が同社の許家印(シュー・ジャーイン)会長を召喚、事情聴取をし、同社に債務再編のためのチームを派遣、駐在させることを表明しました。

 さらに同日、中央銀行、証券監督管理委員会、保険銀行監督管理委員会がほぼ同時に、同じ論調の声明文を発表。広東省政府の行動を支持すること、同社の債務危機は個別案件であり、不動産市場は正常に戻っている、株式市場、金融システムへの影響も限定的かつ制御可能であることを表明し、市場関係者の恒大ショックに対する懸念をなだめようとしました。

 これらはすべて12月3日、たった一日に起こったことです。

 前述のように、中央政府も同社も、互いに織り込み済みということです。同社は中央政府、広東省政府に対し、デフォルトの可能性の公告を香港証券取引所にすることを事前に伝えました。それを受けて中央政府各機関、広東省政府はどのような言動、対応を取るのかを事前に協議した上で、立場を公に表明したということです。

 6日、恒大集団は債務再編へ向けてかじ取りするため、広東省政府官僚をメンバーに加えたリスク管理委員会を社内に設置し、リスク管理を徹底する旨を発表しています。

恒大ショックをどう軟着陸させるのか?中央政府のもくろみ

 ここからは今後の展望について考えていきます。

 恒大集団がデフォルトするか否かは注目ですが、それ以上に、同社を指導・監督する中央政府が恒大ショックをどう軟着陸させようと考えているかが重要です。その意味で、中央政府が現時点で主に考えていることは次の2点。

(1)可能であれば避けたいと思い指導してきたが、恒大集団は最悪デフォルトしてもいい

(2)そうなった場合でも、同社のデフォルトが不動産市場、金融システム、実体経済に波及する悪影響を最小限に抑える

 このように、同社内にはすでにリスク管理委員会が設置され、これから企業再建、債務再編に向けた動きが本格化していくと思います。仮に同社がデフォルトしたとして、そこから何が起こるか。私から見て、参考になるのが海航集団(HNAグループ)の例です。

 海航は、2019年7月に社債15億元がデフォルト。2020年2月に海南省政府が経営に関与する体制となり、その1年後、再建型の倒産手続きを裁判所が受理、2021年9月に裁判所の監督下で債務額が確定、10月には更生計画案を債権者らが承認するに至りました。要するに、最初のデフォルトから2年半弱という時間を要して、ようやくここまでたどり着いたわけです。