12月7日午後、巨額の債務を抱えて経営危機に陥っている中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ:03333/香港)が、米ドル建て債の利払い猶予期限を迎えました。外国債権者への利払いが一部なされておらず、同社の公募債として初のデフォルト(債務不履行)になった可能性もあります。

 この数カ月間物議を醸してきた「恒大ショック」はどこへ向かうのか? 今回解説していきます。

デフォルト危機を乗り切っていた恒大集団だが…

 10月下旬、第3四半期のGDP(国内総生産)統計(4.9%増)が発表されたことを受けて扱ったレポートで「恒大ショックの現在地」を検証しました。

 同社の経営再建や債務再編を指導してきた中国人民銀行(中央銀行)が10月15日に行った記者会見を引用しましたが、同行の主な現状認識のポイントは以下の2点でした。

・恒大集団の総負債のうち、金融負債は3分の1に満たない。債権者も比較的拡散して、個別の金融機関に掛かるリスクも大きくない。全体的に見れば、そのリスクが金融業界に与える影響は制御可能

・恒大集団の問題は不動産業界では個別の案件であり、国内不動産市場をめぐる地価、住宅価格、市場予想は安定していて、大多数の企業経営は穏健、財務指標も良好

 要するに、恒大ショックが不動産市場全体、金融システム、実体経済に及ぼすリスクは限定的というのが中央政府の立場です。

 あれから約1カ月半、中央政府の立場は基本的に変わっていません。と同時に恒大ショックの影響が新たな局面に入ったともいえると私は分析しています。

 9月下旬、恒大集団の債務危機が問題化し始めたころに扱ったレポートで、中央政府は、この危機を「軟着陸」させるべく、同社を指導・監督していく見込みについて指摘しました。この約3カ月間、事態は基本的にそのラインで推移してきたといえます。

 同社の米ドル建ての社債利払い状況を振り返ると、次のようになります。

  利払い期日 利払い額(ドル) 結果
1 9月23日 8,353万
2 9月29日 4,750万
3 10月12日 1億4,813万
4 10月30日 1,425万
5 11月6日 8,249万 ?(猶予期限12月6日)
出所:日本経済新聞電子版

 市場関係者の予想を覆す形で、危機的だった3回目の10月12日も乗り切り恒大集団が利払いを返済してきた背景には、中央銀行をはじめとする当局による綿密な指導が作用してきたというのが私の理解です。

 とりわけ、「中国企業は海外投資家の利益を軽んじている」、言い換えれば、「中国市場は外資を尊重しない」という印象を広げないために、国内の住宅購入者だけでなく、同社の債権者である海外投資家の利益を満たすよう、当局は同社に指導してきた経緯があります。

 ただ私が本稿を執筆している12月8日午前(日本時間)の段階では、期限を迎えた債権者への利払いが一部なされていない可能性が見られます。

 これまで何とか各種資産を売却するなどで持ちこたえてきた同社も、今回は白旗をあげたのではないか、ついにデフォルトに陥ったかという臆測が出回っているのが現状です。

政府の“介入”は何を意味するか?

 実際に、中国政府の恒大集団に対する認識や立場も新たな段階に入っているといえます。

 一部報道に、中国政府が恒大集団の債務処理に「ついに介入」し始めたという指摘がありますが、私から見ると違和感を覚えます。

 本連載で度々指摘してきたように、そもそも当初から、地方政府や金融機関に協力を求める形で、中央銀行と証券監督管理委員会という中央機関が、同社の債務処理を指導・監督してきたことは明白です。

 ただ、当局があからさまに表舞台に出て、同社を「救済」する、あるいは「破たん」に追い込むといった行動はできません。なぜならその行動は、同社が販売する住宅を購入した国内消費者、同社が発行した社債を持つ海外債権者にとっては「モラルハザード」と受け止められ、中央政府の政策や対処に疑問符が付けられる恐れがあったため。若干誇張した言い方をすれば、「介入」は当初から作用していたわけです。

 12月3日、恒大集団が香港証券取引所に対し「債務履行に必要な資金の確保を保証できない」と報告しました。これを受けて、同日、広東省人民政府が同社の許家印(シュー・ジャーイン)会長を召喚、事情聴取をし、同社に債務再編のためのチームを派遣、駐在させることを表明しました。

 さらに同日、中央銀行、証券監督管理委員会、保険銀行監督管理委員会がほぼ同時に、同じ論調の声明文を発表。広東省政府の行動を支持すること、同社の債務危機は個別案件であり、不動産市場は正常に戻っている、株式市場、金融システムへの影響も限定的かつ制御可能であることを表明し、市場関係者の恒大ショックに対する懸念をなだめようとしました。

 これらはすべて12月3日、たった一日に起こったことです。

 前述のように、中央政府も同社も、互いに織り込み済みということです。同社は中央政府、広東省政府に対し、デフォルトの可能性の公告を香港証券取引所にすることを事前に伝えました。それを受けて中央政府各機関、広東省政府はどのような言動、対応を取るのかを事前に協議した上で、立場を公に表明したということです。

 6日、恒大集団は債務再編へ向けてかじ取りするため、広東省政府官僚をメンバーに加えたリスク管理委員会を社内に設置し、リスク管理を徹底する旨を発表しています。

恒大ショックをどう軟着陸させるのか?中央政府のもくろみ

 ここからは今後の展望について考えていきます。

 恒大集団がデフォルトするか否かは注目ですが、それ以上に、同社を指導・監督する中央政府が恒大ショックをどう軟着陸させようと考えているかが重要です。その意味で、中央政府が現時点で主に考えていることは次の2点。

(1)可能であれば避けたいと思い指導してきたが、恒大集団は最悪デフォルトしてもいい

(2)そうなった場合でも、同社のデフォルトが不動産市場、金融システム、実体経済に波及する悪影響を最小限に抑える

 このように、同社内にはすでにリスク管理委員会が設置され、これから企業再建、債務再編に向けた動きが本格化していくと思います。仮に同社がデフォルトしたとして、そこから何が起こるか。私から見て、参考になるのが海航集団(HNAグループ)の例です。

 海航は、2019年7月に社債15億元がデフォルト。2020年2月に海南省政府が経営に関与する体制となり、その1年後、再建型の倒産手続きを裁判所が受理、2021年9月に裁判所の監督下で債務額が確定、10月には更生計画案を債権者らが承認するに至りました。要するに、最初のデフォルトから2年半弱という時間を要して、ようやくここまでたどり着いたわけです。

恒大集団には“虎の子”がある

 恒大集団がデフォルトするとして、今回も数年の時間をかけて、恒大ショックは軟着陸すると私は見ています。実際に、デフォルト危機にある現在でも、同社は国内の住宅工事など事業を継続していますし、外貨建ての債権者と債務の見直しを協議するとも表明しています。

 引き続き、同社の許会長は自社の各種資産の売却を進めるでしょう。その過程で、広州市に建設中のサッカースタジアム(総工費約2,000億円)を実質公的管理下に置く、事業拡大の一環で保有するサッカークラブ「広州FC」を売却する可能性も十分にあります。リスク管理委員会が協議、決定していくでしょう。

 恒大集団のこれからを考える上で私が注目しているのが、多くの子会社を抱える同社が、今後どう債務再編、企業再建し、企業や事業をスリム化する中で、どの分野を「本業」にするかです。不動産市場への依存度は減らしていくのが必至です。

 そう考えると、注目は同社がすでに手を出しているEV(電気自動車)です。

 11月19日、同社のEV部門、中国恒大新能源汽車集団(チャイナ・エバーグランデ・ニュー・エナジー・ビークル・グループ:00708/香港)が、新エネルギー車の生産に必要な資金を調達するため、約400億円の増資を行うと発表しました。

 中央政府が2025年までに全体の2割到達を目指すEVに注力し、「本業」に育てていくつもりで、許会長は未来を見据えていると推察します。

 中国においては、中国共産党・中央政府指導部が、国策という観点から重視する分野に乗っかるのが、経済的に収益を上げる、政治的に身を守るという観点からも重要であり、恒大集団が真の意味での再生を遂げるには、本業をシフトチェンジすることが一つの解になるのではないかと見ています。

 恒大ショックがどう軟着陸するか。いつどこに着陸するか。少なくとも数年というスパンで忍耐強く見ていく必要があります。現時点で拙速に結論を下すのは軽率だと考えます。