習近平が長年の懸案だった固定資産税の導入に向けて、ついに重い腰を上げた

 最後に、共同富裕の実現のために、習総書記が税制改革を視野に入れているのは注目に値します。次のように指摘しています。

「高すぎる収入を合理的に調整し、個人所得税制度を改善し、資本性所得管理を規範化する。積極的かつ穏健に不動産税立法と改革を推進し、試験的導入にしっかり取り組む。消費税収の調整強度を高め、消費税の徴税範囲の拡大を研究する」

 今後、所得や消費をめぐる税率が調整されていくのは必至でしょう。高収入者からより多くの所得税を徴収し、「ぜいたくな消費」に対する一層の徴税が促されるのでしょう。具体的にはこれから出される政策の中身を見ていかなければなりませんが、前提として確かなのは、税率調整の目的が格差是正を通じた共同富裕の実現であるという点です。

 そして、不動産税です。日本の固定資産税に相当しますが、長年、懸案になってきた同税導入に向けて動き出すと、習総書記が明言した意義とインパクトは計りしれません。

 その言葉を裏付けるかのように、10月23日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会が、不動産税を一部都市で試験的に導入するための権限を国務院に授与すると発表。期間は5年で、国務院傘下の各省庁が試験地の調査や策定を行い、どの地域に、どの程度の税率で不動産税を徴税するかを決定し、実行していくことになります。

 中国では、2003年ごろ、導入案が初めて浮上しましたが、不動産需要や住宅価格、不動産事業や経済成長への影響などが懸念され、導入に至りませんでした。その後、2011年から上海市と重慶市で試験的に導入されましたが、徴税の対象となったのは建物の所有税のみで、今回の改革案では加えて土地使用権も含まれるようになります。

 私自身は、権力基盤を確固たるものにしてきた習総書記だからこそ、党・政府として長年踏み切れなかった同税の導入に向けて動き出したと見ています。

 これまで踏み切れなかった最大の理由は、党内外からの反発を招くのが必至だからです。不動産をたくさん購入したい富裕層、不動産業界でもうけたいデベロッパー、不動産建設のため土地を売却することで財政を潤したい地方政府、そしてこれらのプレーヤーと癒着、結託する党内勢力などは、不動産税の導入に強く反対し、時の政権に圧力をかけてきました。

 反対勢力からの抵抗や圧力をはねのけるだけの権力基盤を持つ習総書記は、不動産投機を抑制し、住宅の価格高騰を抑えることを通じて、低所得者層や中産階級に寄り添うこと、格差是正を通じて、国家戦略に掲げる「共同富裕」を促進することを目的にしているのでしょう。

 今後5年間は様子を観察していかなければなりませんが、試験導入が功を奏し、全国に広がり、同税が正式に導入されることになれば、不動産市場、および中国経済全体をめぐる構造に大きな影響を及ぼすことになるのは必至です。長い目で追っていきたいと思います。