独禁法行使の拡張は「共同富裕」実現への布石

 前述の『経済日報』論考による次の指摘は、当局が美団へ独禁法違反で罰金を科した真の政策的動機を示していると思います。少し長くなりますが非常に重要なので引用します。

「中国改革開放の40年の歩みは、大きな程度において、市場競争メカニズムの比重を不断に拡大したプロセスであった。市場の公平な競争が市場とイノベーションの力を活性化することで、経済は繁栄していった。今日、新たな発展段階に立脚し、新たな発展理念を貫徹し、新たな発展の局面を構築する上で、中国経済体制改革にとっての核心的問題は、政府と市場の関係をしっかりと整理すること、市場が資源配置の過程で決定的な役割を果たし、政府がよりよい役割を果たすことで、有効な市場と有為の政府の結合を実現することだ」

「『独占禁止法』は市場経済における基本的な法律制度として、競争という市場メカニズムの核心を守り、経済運営の効率を向上させ、消費者の利益と社会の公益を守り、社会主義市場経済の健康的発展を促すことを主旨としている。従って、社会主義市場経済が発展すればするほど、独占的地位濫用の禁止を強化していく必要があるということだ。政府は“見える手”としての役割をしっかり果たし、ハイスタンダードな市場システム構築を推進し、公平な競争からなる市場秩序を守る必要がある。市場メカニズムの有効な運営を保障し、“見えざる手”による効率的な資源配置を促し、企業によるイノベーションと市場の活力を活性化させることで、新たな発展局面の構築を推進し、高質量発展を実現し、共同富裕を促進するのである」

 やはり最後は「共同富裕」に行きつく、それこそが最大の目的ということです。

 アリババや美団といった企業は、疑いなく改革開放40年の歴史上、市場メカニズムが形成されていく中での勝ち組です。「先富論」、すなわち「富める者から富め」というお墨付きを与えた改革開放の設計士・鄧小平(ダン・シャオピン)の論理からすれば、勝ち組の存在と拡大は「社会悪」ではありません。勝ち組が生まれなければ、中国経済はここまで発展してこなかったわけですから。

 中国は、(統計の信ぴょう性はさておき)2011年から2020年の10年間で、GDP(国内総生産)と一人当たりGDPを倍増させました。

 そして、2021年から2035年の15年間で、さらに倍増させるという国家目標を掲げています。高度経済成長が過去のものとなり、環境への配慮を含めた「高質量発展」は、経済成長のスピードの鈍化を前提としています。10年ではなく、15年で達成すると設定したゆえんでしょう。

 だとしても、後者は明らかに前者よりも前途多難。そして、2035年GDPと一人当たりGDPの倍増を実現するためには、もはや「先富論」では物足りない。4億人の中産階級、人口の半分以上いる低所得者層の所得や購買力を「底上げ」しないことには、目標は達成しえないと考えているのでしょう。

 勝ち組が勝ち逃げするのを防ぎ、富の再分配、再々分配を促すために、独禁法という手段の行使を通じて、勝ち組の負け組に対する“搾取”を防ごうとしている。共同富裕を扱った中央会議が提起していたように、両端が大きい「鉄アレイ型」の社会から、中間層が膨らんだ「ラグビーボール型」の社会への転換を遂げるためには、勝ち組への制裁は「必要悪」というのが私の解釈です。

 そして、美団やアリババを含めた勝ち組たちは、当局が勝ち逃げを許さないこと、その前提で引き続き中国で商いを行っていく必要性を、十二分に理解しているのです。