美団幹部や市場は約590億円の罰金をどう受け止めたか?

 美団が罰金を科されたのを受けて、関係者と議論をしてみました。

 まず、当事者である美団社の中堅幹部と話をしましたが、先方は終始落ち着いた様子でした。当局は約半年前、本件を調査すると公言した上で、同社の幹部やスタッフへのヒアリングを含め、事実関係を徹底調査した上で、今回の決定を下しています。

 この幹部は言います。

「当局の調査には合理性と透明性があった。弊社としても伝える部分はしっかり伝えることができたし、この日を迎える上で十分に準備をする時間もあった。そして、34.42億元という額は我々が想定していたよりも少なかった」

 ちょうど当局が美団への立件と調査を発表したころ(2021年4月)、SAMRは同じく独禁法違反でアリババ社に約182億元(約3,050億円)の罰金を科しました。この額は、アリババ社の2019年国内売上高の約4%相当。中国当局が定める法規制によれば、企業への罰金額の上限は前年度売上高の10%ですが、今回、美団社が科された罰金額は約3%で、当時のアリババよりも上限額を下回るものでした。

 そして、罰金額が予想を下回るものだったというのは、市場関係者の認識とも大体一致しているように見受けられます。

 8日(金曜日)の罰金発表後、11日(月曜日)の香港株式市場では、中国テクノロジー大手から成る株価指数が3営業日続伸。罰金を科された美団さえ、一時8.6%高(アリババも一時7.9%上昇)を記録しました。

 市場が当局の“規制ラッシュ”に慣れてきた、企業への規制強化が常態化するニューノーマルを受け入れた、ということなのでしょうか? 

 私の分析によれば、中国国内外を問わず、市場関係者は依然として業種を問わず拡散しているイノベーション企業への規制強化を警戒しています。一方で、当局による罰金が、根拠に乏しい暴挙ではなく、その名目、動機、背景、そして金額からして、一定程度想定内という認識が芽生えているように見受けられます。

 本件を受けて話を伺った、私が信頼するアジア投資のプロフェッショナルは言います。

「美団やアリババが標的となった独禁法は、米国でも欧州でも当たり前のことで、中国独自のリスクではない。中国当局は今後も民間・イノベーションに頼った成長を継続していくだろう。ただ、市場独占による暴利は許さないだけだ」

 8日、中国共産党機関紙『経済日報』が美団の独禁法違反について「プラットフォーム経済が低水準競争循環に陥るのを回避せよ」と題した論考を発表しました。

 その中で、各国、特に欧米の先進国は、普遍的に市場での独占的地位を築くことを嫌い、法的手段を用いて市場の公平な競争を保護している、例として、2017~2019年の3年間で、Google社は欧州において3回独禁法違反で処罰され、合計82.5億ユーロ(約1兆円)の罰金が科されたと指摘しています。

 前述の美団幹部は言います。

「独禁法が中国で全面的に展開されるのは時間の問題で、この日がやってくることは我々にとっても完全に想定内だった。それでも、欧米に比べればまだまだ緩い。我々は、今後中国当局は欧米並みに独禁法違反を処罰してくるという前提で商いを行っていかなければならない」

 独禁法という分野に限って言えば、中国当局はようやく本腰を入れて取り組み始めた、という解釈は現実に即していると私も思います。もちろん、中国においては、政治、イデオロギー、国家安全といった観点から、インターネットの遮断、外資への規制、言論の自由への抑圧、そして市場の公平な競争を歪める国有企業への補助金や優遇策などが依然蔓延(はびこ)っているのも事実です。チャイナリスクと言える産物です。