「低コスト」の意味

 先のA、B、Cの例では、手数料コストを考えていないが、例えば、それぞれがETF(上場投資信託)だとして、運用管理費用(信託報酬)が存在する場合、期待できるリターンは運用管理費用で差が付くことになる。

 手数料は、「リスクゼロで確実に発生するマイナスのリターン」なので、その影響が大きい。例えば、6%で20年間複利運用できれば運用資産は元の投資額の約3.2倍になると期待できるが、毎年1%の手数料コストが掛かり5%の複利運用になると、約2.7倍にしかならない。毎年2%の手数料コストなら約2.2倍だ(何れも小数第2位を四捨五入)。せっかくのリターンを、金融業者と「分ける」ことが、いかに損なのかがよく分かる。

 米国の金融アドバイザーは、アドバイザーが顧客に提供する「価値」の内訳として、厚かましくも「市場に居続けることによるリターン」をカウントすることがあるが、「市場に居続けること」は個人が自分の判断で行うことができる意思決定なので、アドバイザーを雇って追加的な手数料を払うのはもったいない。

「いいタイミングを判断することは誰にもできないので、市場に居続ける以外に良い方法はないし、そのためには分散投資された状態で資産を持つことが効率的であり、なるべく手数料コストの小さい商品で運用するのが合理的だ」と一度理解してしまえば、それで済むことだ。自分にとって適切な大きさのリスクに納得した上で、全世界株のインデックス・ファンドでも買ってしまえば、資産運用は完成する。

 運用が仕事や趣味でない人は、それで問題ない。大いに人生を楽しんで、お金が必要になったら必要額だけ解約すればいい。

 尚、世間では、「投資の3原則」を挙げる場合に、「長期投資」、「分散投資」に「積立投資」を加えて3原則とすることが多い。

 積立投資は、実行しやすい貯蓄の習慣と資産形成のための投資を両立させやすい方法である点で優れている。一方、「ドルコスト平均法による有利性」を理由に挙げることは不適切だ。投資できる資金額を既に持っている場合は、買い付け時期を分散させると機会損失が起こるし、「既に買って持っている資産」についてはどのような買い付け方をしたかによって保有リスク資産額当たりのリスクが変化することはない(つまり「有利」になることはない)。

 積立投資は、例えば定期的な収入があるサラリーマンにとって、毎月の最適投資額が追加的に増えている状態なのだと理解することが適切だ。

 加えて言うなら、運用の商品やサービスを選択する際の「コスト」の問題は、一般的な原則から外すにはあまりに重大で決定的だ。

 筆者は、「長期、分散、低コスト」をより一般性の高い投資の3原則とすることが適当だと考えている。