ほんとうの中国問題、私たちも「共犯」

 先々週のレポート「中国当局は恒大集団債務危機をどう“軟着陸”させようとしているか?」の最終部分にて、次のように結論付けました。

 私の分析によれば、中国当局は、恒大債務危機への対処を通じて、対自国民、海外投資家へのアピールという意味でポイントを稼げると踏んでいます。

 あれから2週間がたちましたが、中国当局が恒大ショックに対処する上での姿勢、および戦略的目標は何ら変化していません。そして、前述のウォール街や香港から中国市場を眺める海外投資家たちの現状認識は、中国当局からすれば「狙い通り」だと解釈できるのです。

 時間軸、空間軸をやや広げて考えてみます。

 ちまたで、今回の恒大ショックを「中国版リーマン・ショック」だと揶揄(やゆ)する声が散見されるように、私たちは、多かれ少なかれ、米中関係、米中対立、米中競争という視角から本件を捉えることがあります。実際に、私が議論をしたウォール街関係者数人が、「米国当局のリーマン・ショックへの対処に比べて、中国当局の恒大ショックへの対処のほうが優れている」「世界的金融危機を引き起こしかねないような事態に陥った場合、中国のガバナンス体制のほうが力を発揮する、危機管理に適している」と語っています。

 私から見て、このような米中比較は決して氷山の一角ではなく、一定の普遍性を内包するものです。実際に、1970年代後半以降、改革開放の歴史を簡単に振り返ってみると、天安門事件、アジア通貨危機、SARS(重症急性呼吸器症候群)、四川大地震、リーマン・ショック、米中対立、香港問題、新型コロナウイルス、そして今回の恒大ショックなど、経済、社会、政治、外交的要素が複雑に絡む分野で、中国共産党のガバナンス(統治)は歴史の審判にかけられてきました。そのたびに、市場や世論では「中国崩壊論」が声高く叫ばれました。

 しかしながら、中国は崩壊しなかった。それどころか、年を追うごとに、危機に直面するたびに、国力や影響力を向上させてきた。「チャイナモデル」(中国語で「中国模式」)「ベイジン・コンセンサス」(中国語で「北京共識」)といった概念が取り上げられ、もてはやされ、皮肉られるのは、マルクス主義、社会主義を堅持する中国が共産党一党支配体制の下、あらゆる危機を乗り越え、“期待”を裏切り、追い抜く対象として残るは米国だけという現在地にまで登り詰めてきた証左でもあるのです。

 中国共産党は、恒大ショックという、国にとっては局地的な危機と言える今回の事態に臨むにあたっても、これまでと全く同じ姿勢と目標を持っているというのが私の理解です。

 端的に言えば、ショックへの対処を経て、中国共産党一党支配体制、中国の特色ある社会主義、習近平新時代、チャイナモデル、ベイジンコンセンサス(言葉は何でもいいですが)などの、とりわけ米国に対する優位性を内外に見せつけ、結果的に、中国共産党の正統性維持と強化という最大の国家目標を担保することにほかなりません。

 そして現状は、上記のように、資本主義世界に生きる海外投資家の多くが、中国共産党の思惑に沿った形で現状を認識しているように私には映ります。

 他方、米中関係は引き続き緊張状態にあり、自由や人権、香港や新疆ウイグル問題などをめぐって、来年2022年2月の北京冬季五輪に向かって、西側と中国の間の摩擦や矛盾は激化していくでしょう。西側の中国に対する不信や不満の根幹には、中国の特色ある社会主義、習近平新時代が横たわっているのです。

 このように見てくると、西側資本主義・民主主義世界において、政府と民間、戦略界と実業界の間の「中国観」はかなりバラバラであり、そもそも中国問題とは何なのか、をめぐっても、全くコンセンサスが取れていない。そして、中国共産党はそこを突いてくる。自国の政治体制や発展モデルに対してますます自信過剰になり、「戦狼外交」を繰り広げ、西側諸国との国家間関係は悪化、相互不信は助長されます。経済や市場への悪影響・リスクは当然生じます。悪循環です。

 これこそがほんとうの中国問題、というのが、本稿で最も主張したいことです。

「これ」とは、中国問題とは、中国の当局や企業の言動によってのみ生ずるのではなく、それらと付き合う側、すなわち私たちにも原因があるということです。

 もちろん、全てのステークホルダーが同じ方向を向いているなどと言うことはありません。全体主義は不健全です。

 ただ、官民や業界の垣根を越えて、「恒大ショックの何が問題か?」「中国問題とはそもそも何なのか?」という根源的な部分にまで踏み込んだ上で、中国という強大経済・巨大市場を捉え、付き合っていく必要があるのではないか。理解を示すもしかり、注文を付けるもまたしかり、です。

 さもなければ、健全な圧力を受けない中国は不健全に膨張し、結果的に私たちの利益をもむしばむ悪循環さえ招きかねません。ブーメラン現象です。その意味で、恒大ショックを前にして、私たちも試されている。中国に関わる全てのステークホルダーは「共犯」だということです。