もう、仕事はしない

 小さな子供のいる家庭では、親が働きに出かけている日中はおじいちゃん、おばあちゃんが面倒を見ることが多いため、55歳以上の年齢層の人材が労働市場に戻れずにいます。55歳以上の労働参加率は、下落全体の3割を占めています。

 しかし、この年齢層の人たちの多くは、学校が始まっても再就職はしないと決めているのです。

 金融危機後(リーマンショック)が起きたとき、当時40台後半から50台前半だった人たちは、老後の貯蓄がなくなってしまい働き続けるしかありませんでした。米国の退職率はその後もずっと減少してきたのですが、2020年になってこのトレンドが逆転。

 なぜかというと、株価がコロナ禍の中で過去最高値をつけるまで上昇したことで、引退後の蓄えができたからです。コロナ後に仕事に戻るよりもリタイアを選んだこの世代の「FIRE」ブームが、失業率が下がるなかで雇用が伸びない理由といわれています。

 FRBがいくら緩和政策で経済を刺激したところで、これらの人々が仕事に復帰することはありません。これは米国に限らず先進国に共通する構造的な問題です。

 FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった流行語で、「経済的自立を果たし、早期引退する」という意味。

 50代後半で引退することが果たして早期といえるのかわかりませんが、世界的な株高が続くなら、もっと若い世代からもFIREする人が増えてくるでしょう。経済を助けるはずの中央銀行の緩和政策が労働力を減らし景気拡大の邪魔をしているとすれば皮肉なことです。