今回は、お金と幸福との関係について考えてみたい。大きなテーマなので、結論が出るとはとても思えないが、読者と書き手自身とがこの問題について考える手掛かりになるといいと思いながら書いてみる。

きっかけは「FIRE」

 筆者がこの問題を考えようと思ったきっかけは、「FIRE」についてあれこれ検討してみたことにある。FIREとは大まかに言うと、若くしてリタイアできるような金融資産を築くことだが、筆者は、若い頃からこの状態を目指してお金を貯めて、投資に励む人生戦略に対して違和感を感じた。

 若い時分には、金融資産に投資するよりも、自分自身の「人的資本」の拡大のために投資する方が、効果が高い場合が多いのではないか。

 生活のスケールを切り詰めて、それこそ爪に火(FIRE!)を灯すような生活をしながら貯金と投資に励むと、一種の逃げ切り状態である「FIRE」に到達できるかも知れないが、その稼ぎと支出の経済的スケールは小さなものにとどまってしまいそうだし、FIREに達するまでの年数(順調で十数年)の経験がつまらないものになってしまうのではないか。人生全体がしぼんでしまうのではないかと心配だ。

 一般論として、(1)自分の「教育」・「経験」・「人間関係」への“投資”は早い時点に行う方が効果的である。

 図1のような損得勘定だろうか。

(図1)人的資本と金融資産への投資の年齢別累積損益

出所:筆者作成

 金融資産への投資は複利の効果が働くこともあり、若い頃に行い長期で運用することが有効だが、例えば、仕事のスキルにプラスになる投資(典型的には、いい学校に行く、資格を取る、修行のために外国に渡る、など)は、将来の収入を増やすことにつながるし、その効果を長く享受できる点で、早く行う方がより有効なのだ。

 逆に、例えば、定年前に社会人大学院でMBA(経営学修士)を取るような自己投資は、本人の満足にはなるかも知れないが、そのスキルによる収入増加では掛かったコスト(直接的な学費の外に、働きが減って稼ぎが減ることの機会費用も含む)を回収できないかも知れない。金融資産に投資する方がマシだという状況は大いにあり得る。