フローからストックへ

 先の図2は、時間の過ごし方と幸福感・有利感の関係を表した、言わば「フロー」の図だが、その時々の人生の状況をあたかもバランスシートのように捉えて、位置を把握する「ストック」の概念を考えてみよう。図3を見て欲しい。

(図3)「お金」と「自由」に関する現在のポジション(B/S的なプロット)

出所:筆者作成

 人は、図3のできるだけ右側のポジションに位置することができると幸せだ。しかし、金銭的な余裕がなくなると、左の領域に移動するような力が働きやすい。

 例えば、就職活動に励む学生は、なるべく自分の好きな仕事で(なるべく右側で)、なるべく早く収入が増える(上に移動できる)ような就職先を探したいと思うのだろう。

 試しに、筆者の人生のポジション推移をプロットしてみた(図4。あくまでも主観的なものだが)。

(図4):筆者の人生のポジション推移

出所:筆者作成

「そう嫌いではない仕事から始まり、少しずつ経済状況を(新入社員の頃よりは……)改善してきたが、好きな仕事も、そう好きでない仕事も経験し、たいしてお金持ちにならずに、しかしまあまあ好きな仕事ができている現在に至る」といったイメージだ。もう一度描き直すと全く異なる線になるかも知れないが、思い切って描いてみた。

 経済的には何も持っていない新卒の就職から、なるべく右側にポジションを取り、働き甲斐のある仕事でお金を増やして、自分のポジションをひたすら右上に導くことができると人生は素晴らしいのだが、そうも行かないのが人生だ。

「お金」と「自由」のトレードオフ

「お金は自由を拡大する手段だ」とは、筆者がセミナーなどの冒頭でよく述べる言葉なのだが、お金を使うと自由の範囲を拡げることができる(図4のより右の点に移動できる)。

 一方、他人も自分も嫌うような(キツい? つまらない? 悪い? ……)仕事の方が稼げるお金は大きいケースが少なくない。「お金」と「自由」にはトレードオフ関係がある。この関係を示してみたのが図5だ。

(図5):「お金」と「自由」のトレードオフ関係

出所:筆者作成

「お金」で「自由」を買うことができるし、一方、自分の「自由」を犠牲にして(たとえば自分の時間をより多く売って)「お金」を手に入れることができる。

 ちなみに、FIREには、どのくらいのリッチ加減(高さ)を維持して、どの程度の自由を享受しようとするのか(どれだけ右に行けるか)によって、多様なグレードが存在することが分かる。