バイデン米大統領による米軍完全撤退表明を受けて、イスラム主義組織タリバンが復権し、アフガニスタン情勢は混迷しています。中国はロシアと協調しながら、米国の「20年戦争」は失敗だったと批判しています。さらに、西側諸国の対タリバン制裁をけん制しつつ、実質的にタリバン政権を下支えする動きに出ると考えられます。中国のねらいはどこにあるのでしょうか。

 今回は、タリバンに対する今後の中国の出方、および市場へ及ぼし得る影響やリスクについて、解説していきます。

米軍撤退表明で混迷するアフガニスタン情勢

 今年4月、バイデン米政権が米軍をアフガンから完全撤退させると表明したことは、タリバンを勢いづかせ、実権を掌握する流れにつながりました。ガニ大統領が海外逃亡し、米国が支えてきたアフガン政権は実質崩壊。首都カブールの空港周辺は、タリバン復権に身の危険を感じ、脱出を試みる人々でごった返しています。

 8月24日、G7(主要7カ国)首脳はアフガン情勢をめぐって緊急テレビ会議を招集し、外国人やアフガン人協力者の安全な国外退避に向けて、緊密な連携を続ける方針を表明。また、女性や女児、少数派の権利尊重、各勢力を取り込んだ、包括的な政府の樹立を訴え、「アフガンが二度と、テロリストの安全な避難場所や他者へのテロ攻撃の源になってはならない」と強調しました。

 米軍のアフガン撤退期限は8月31日に設定されています。米軍による拙速な撤退はアフガン情勢をさらに混乱させる無責任な行動であると、疑問や批判を投げかける声がG7加盟国からもあり、米国に撤退時期延長を求める動きも見られます。

 一方、タリバン側は同期日の延長は認めず、バイデン大統領も期日内の撤退を堅持しており、今後1週間は予断を許さない状況が続くでしょう。

 バイデン大統領は、米国のアフガンに対する「20年戦争」を終わらせることを大義名分に、完全撤退を表明。これを、戦争を含めた対外介入に嫌気が差している有権者へのアピールとし、政権支持率を向上させたいのでしょう。

 2001年9月11日からの20年間で約2兆ドル(約220兆円)をつぎ込み、2,500人の米軍兵士、4,000人近くの米国民間人契約者、6万9,000人のアフガン警察、4万7,000人の民間人、5万1,000人の反政府勢力の兵士が死亡した「20年戦争」が、「成功」だったなどとはとても言えません。

 米国の一部有権者は、財源節約、内政問題解決に集中すべきといった観点から、バイデン政権の決断を支持するでしょう。米国の一部戦略家も、アラブ中東ではなく、中国やロシアといった新たな脅威との競争に財源や労力を回すべきだという観点から理解を示すのでしょう。

 一方で、G7加盟国を含めた西側諸国、および国際社会では、米国の中途半端な撤退を無責任な行動と受け止める様相が漂っています。米国がこれまで同盟国やパートナー国と連携、協調しながら保持してきた対外影響力や信用力を疑わざるを得ない結果となりました。内政でポイント稼ぎをするために、唯一の超大国である米国が対外的責任をないがしろにしたと。

 ここで頭の体操として、問題提起してみます。

 仮に北朝鮮が核実験やミサイル発射を含めて暴挙に出る、中国が台湾に対して武力侵攻する、尖閣諸島を実効支配すべく攻勢をかけてくるといった状況が起こったとします。

 米国はその時、「そこへ必要以上の財源や労力を割くことを、我が国の国民は望んでいないし、国益にも一致しない」と結論を出し、しかるべき関与と対応をしなかった場合、どうなるでしょうか。「戦う軍隊」を持たない日本は、深刻な安全保障上の危機に見舞われ、市場が大暴落するのも必至です。

 このように、米国によるリーダーシップとプレゼンスは、世界各地の平和や繁栄を左右し得るだけのインパクトを持っています。その出方や状況次第では、安全が脅威にさらされ、市場が混乱する結果を招き得るのです。