アフガン情勢が市場に及ぼす3つの影響

 さて、ここからはアフガン情勢の混乱が市場に及ぼし得る影響を、私なりに考え、次の3つについて指摘します。

8月31日の米軍撤退期限に伴う混乱リスク

 一つ目が、8月31日という米軍撤退期限に伴う混乱リスクです。

 23日、日本政府も現地法人や大使館職員らを国外退避させるべく、アフガンに自衛隊機を派遣しましたが、米国を中心に、各国が競うように関係者を彼の地から脱出させようとしています。しかし、タリバン側はそれらの動きに警戒を強めており、自国民に対して空港へ赴かないように禁止令を発しているという情報もあります。

 カブール空港で銃撃戦が展開されるなど、銃発がはびこる地帯における極めて限られた時間内での攻防なだけに、どんな不測の事態が生じるとも限りません。タリバン戦闘員がドイツ人ジャーナリストの家族を殺害した実例もあります。日本人が絶対安全に退避できるという保障はどこにもありません。

米国の対外影響力、信用力の低下リスク

 二つ目に、上記でも言及した、米軍撤退に伴う、米国の対外影響力、信用力の低下というリスクです。

 トランプ前政権に比べ、バイデン政権では自由や民主主義といった価値観に基づいた西側諸国、同盟国、パートナー国間の団結を呼び掛けつつ、米国のリーダーシップの再構築に汗を流しているように見受けられます。

 一方で、米国内における人種、階層間での分断が進み、かつ行方が不透明なコロナ禍での経済再生に労力を取られる中、米国が対外的責任や関与を実質放棄する、消極的になる可能性は大いにあるでしょう。

周辺地域が不安定化する地政学的リスク

 三つ目に、「タリバン政権」下におけるアフガンに「力の空白」が生じ、テロや難民がはびこる中で、周辺地域が不安定化する地政学的リスクです。

 アフガンはイラン、パキスタン、そして中国など地政学的にリスク要因を抱える国家と国境を接しています。アフガン戦争は失敗に終わったとはいえ、過去の20年間、米軍の駐在はこの地域の安定に相当程度、寄与してきました。

 これから米軍が去り、誰がその役割を担うのか。私自身は、中国人民解放軍がアフガンに常駐する可能性は限りなくゼロに近く、アフガン情勢への介入にも慎重に慎重を重ねるとみています。あくまでも、ロシアと連携しつつ、タリバン政権との対話を継続しつつ、経済的支援を通じて同国の「崩壊」を回避する程度にとどめるでしょう。実のところ中国共産党は、タリバンを信用していません。

 そう考えると、やはり米国を含めた西側諸国と中国・ロシアが、アフガン情勢を軟着陸させることを共通の利益として、機能的に協力していく以外に道はないでしょう。

 中国は「タリバンが国内各派との対話と協議を通じて開放的で包容的な政権構造を築くことに期待している」(趙立堅[ジャオ・リージェン]外交部報道官、8月18日の定例記者会見)という立場を繰り返し述べてきましたが、これはG7首脳が表明した「少数派の権利尊重、各勢力を取り込んだ包括的な政府の樹立」という立場と基本的に一致しています。

 今後、西側諸国がタリバンに対して制裁措置を取るのかどうかが一つの焦点になります。中国は西側諸国にタリバンを制裁するのではなく、鼓舞すべきだと主張しています。

 両者の間で、アフガン情勢への対応をめぐって矛盾や摩擦が起こる可能性は十分にあります。しかし一方で、力の真空、地域の不安定化、テロや難民の横行といった最悪の事態を回避するために、タリバン復権を前提に、タリバンとの実利的対話を実行していく以外に選択肢がないのも、また事実です。

 アフガン情勢での連携が、米中対立の「緩衝地帯」としての機能を担い、新疆ウイグルや香港問題、通商やハイテクといった分野で歩み寄りの姿勢を見せるようになれば、市場にとって好材料になるかもしれません。