中国の戦略(2)タリバンを実質的に下支えすることで、「核心的利益」を死守する

「米軍完全撤退表明→タリバン復権」の可能性を見越してか、7月28日、王毅外相が首都北京の隣にある天津市にタリバン幹部を迎え、対面で会談しています。王外相は次のように指摘しました。

「アフガンはアフガン人民に属する。アフガンの前途や命運は、アフガン人民の手中に掌握されるべきだ。米国やNATO(北大西洋条約機構)軍がアフガンから拙速に撤退することは、米国のアフガン政策の失敗を実質意味している。これによって、アフガン人民は、自らの国家を安定、発展させる重要な契機を得ることになった」

「タリバンはアフガンにおける重要な軍事的、政治的勢力であり、アフガンにおける平和、和解、再建プロセスで重要な役割を果たすことが期待される」

 タリバン訪中の目的は、米軍撤退を受けて自らが実権を掌握するプロセスに対し、中国の支持を取りつけることだったのでしょう。逆に中国は、自国が警戒する東トルキスタン・イスラム運動を含めたテロリストと一線を画すことを要求し、タリバン側に、「いかなる勢力であれ、アフガン領土内から中国に危害を与えることを絶対に許すことはしない」と約束させました。

 中国としては、米軍撤退後、タリバン政権下でテロリズムが横行し、大量の難民が新疆ウイグル自治区を含めた中国の領土内に押し寄せる事態を、国家安全保障の観点から警戒しています。王毅・ブリンケン会談において、前者が後者に「米国はいかなる形式によるテロリズムにも反対する。中国西部辺境地域で動乱が出現する事態を求めることはない」と約束させている場面からも、中国側の警戒度がうかがえます。

 テロや難民を警戒しつつ、中国は「一帯一路」の枠組みを使いながら、アフガンの経済振興や民生改善を支援していくでしょう。

 2016年、中国とアフガンは一帯一路をめぐる政府間のメモランダムに署名。以降、両国間の貨物貿易が本格的に実施されています。2019年には、中国による無償援助で国家職業技術学校を設立。アフガンの若者に専門的な技術教育を施しています。カブール大学には、中国による援助で教室や礼堂が造られています。

 中国としては、タリバン政権と連携しつつ、現地でのインフラや教育に積極的に関与し、経済力を後ろ盾にアフガンで「親中政権」を育みたい。これによって「核心的利益」である新疆ウイグルに関わる問題を解決する過程で、タリバンからの全面的な協力と支持を得ようとしていくでしょう。

中国の戦略(3)結果的に「中国の特色ある社会主義」を堅持する共産党の正統性を強化する

 王毅外相はブリンケン国務長官との会談で、次のように主張しています。

「事実は今一度証明された。外来のモデルを歴史、文化、国情が全く異なる国家に輸入しようとしても、それは相互にマッチせず、うまく立脚しない。一国の政権は、人民からの支持なくして自立できないのだ。強権や軍事的手段によって問題を解決しようとすれば、問題はさらに増えるだけだ。この教訓をしっかり反省する必要がある」

 アフガン問題を語りつつ、米国が自由、民主主義、人権といった価値観を掲げ、香港や新疆ウイグル問題で中国への「内政干渉」を強めている現状を強くけん制しているのが見て取れます。

 米国による内政干渉や価値観外交がいかに世界の平和と繁栄に逆行する結末を招くかを訴えることで、「だから新疆ウイグルや香港情勢にも一切干渉するな。すればするほど事態は深刻化し、結果的に米国自身の国益も損なうことになる」と言いたいのです。

 この目的は、「中国の特色ある社会主義」を掲げる中国共産党による統治こそが、新疆、香港を含めた中国の安定と発展を促すことができると、国内外で証明することにほかなりません。