【4】2021年 投資家の「FIRE」ブーム

「人生100年時代」や「老後2,000万円」といった、世間がまとめて注目するような大きなブームではないが、2021年現在、投資家の間で話題になっているのが「FIRE」(Financial Independence, Retire Earlyの略語)だ。早期にリタイアできるような金融資産を形成する状態を指しており、若い投資家の目標として語られることが多い。

 気づいてみると、5年前の「LIFE・SHIFT」では「長く働く」ことが推奨され、「FIRE」は「早期引退」を指向していて、一見真逆の方向のようでもある。

 しかし、少し考えてみると、どちらも長い人生を支える経済力の重要性を意識していて、着実な資産運用を実行することが合理的なので、互いに矛盾している訳ではない。

「FIRE」が金融資産への投資に重点を置くのに対して、「LIFE SHIFT」では関心が人的資本に向かっている点が主なちがいだ。

「FIRE」については、詳しくは別途論じたいと思うが、人生のそれぞれの時期にあって、金融資産と人的資本に対してどう投資し、どう支出するのがより効果的かという人生の時間を通じた最適な投資配分の問題が興味深い。昨今の「FIRE」本は、資産運用の問題に無駄に多くページを割いていて、ポイントを外しているものが多いように思う。

 過去5年の、投資家周辺の世相を振り返ってみると、「老後のお金が心配だ」から「金融的な独立を早く確立したい」に投資家の関心が移ってきたのだから、集団としての我が国の投資家の意識は、少しは成熟したと考えていいように思う。

 尚、お金の「最適な運用の方法」は、人生を「LIFE SHIFT」的に考えても、「FIRE」的に考えても、何ら変わるものではないことを付記しておく。