【2】2019年、「老後2,000万円問題」

「LIFE SHIFT」以来、約2年間に亘って老後の経済的備えに対する関心が高まっているところに、この関心を爆発的に後押しする「老後2,000万円問題」が勃発した。

「人生100年時代」の問題意識の下に、金融庁が主宰する有識者会議がまとめた報告書の中で、平均的な家計は、公的年金だけでは老後の生活資金が不足するので、これを補うためには老後を迎えるまでに2,000万円程度の資産を作っておく必要がある、との試算が大いに問題となった。所得や資産に関しては「平均」よりも少ない人の数が多いこともあって、「2,000万円も必要だなんて、政府は無責任だ!」と連日ワイドショーで取り上げられる大騒ぎになった。

 報告書は、「人生100年時代で、老後のお金の備えは大事なので、投資などで資産形成に励むことが望ましい…」といった、よくある金融商品の広告のような構成になっていたが(金融業界関係の有識者が多かったからだろう)、「2,000万円」の部分をよく読むと複数の前提条件付きの「一つの試算」を示したにすぎないので、特段問題になるような内容ではなかった。

 ところが、担当大臣の麻生太郎副総理が、この報告書を十分な理由説明なしに問題だと言い、ついには報告書の受け取りを拒否した(諮問した当の大臣が拒否したのだ)。この対応で、ますます世間を騒がせる大問題になった。

 問題を振り返ると、先ず、(1)本来、個人個人が「自分の数字」で計算すべき老後の備えについて、計算の方法を伝えるべきところを、平均の数字の試算例のみを提示したのが不親切であった。「平均」の数字の例示が多いことは「使えないマネー本」の特徴の一つでもあるが、ざっくりではあっても、個別のケースについて本人が自分で計算できる方法を教えるのが適切だと筆者は考えている。(計算方法は「人生設計の基本公式」の計算サイトをご参照下さい。)

 加えて、(2)丁寧に説明すれば何でもなかったはずの問題を、乱雑に扱った麻生大臣の対応は拙かった。この問題が「炎上」した責任は彼にあると、筆者は思う。

 しかし、世の中には「炎上マーケティング」という言葉があるが、この「老後2,000万円問題」は特大の炎上マーケティングとなった。

 金融・運用業界が長年「貯蓄から、投資へ」と言っていて、なかなか効果の出なかった投資への関心誘導が、この問題で一気に進んだのだ。前年に、つみたてNISAという投資入門者に適した制度がスタートしていたこともあり、個人の証券口座開設、積立投資の開始などが目立って増えた。