為替DI:8月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「8月のドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

 楽天証券が先月末に実施した相場アンケート調査によると、個人投資家4,106人のうちの約37%(1,519人)が、8月のドル/円は「ドル高/円安」に動くと予想しています。先月(45%)に比べると、円安見通しは8ポイント減りました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 一方で「ドル安/円高」予想は23%(927人)。先月(18%)に比べると、円高見通しは5ポイント増えました。残り40%(2,333人)は、「動かない(わからない)」でした。

ドル/円あるある?

 ドル/円によくみられるパターンとして、月の第1週に発表される米雇用統計の直前あるいは直後の高値が、その月の高値になるというのがあります。その後は下げて月中から月末にかけて安値をつけると、再びそこから翌月の雇用統計を目指して上昇を始めます。

 7月は、このパターンが出現しました。米雇用統計が発表された2日に約1年3カ月ぶりの円安水準である111.66円をつけ、これが7月の高値となりました。

 8日には米長期金利の急低下と共に、110円も下に抜け109.53円まで下落。6月米CPI(消費者物価指数)が13年ぶりの高水準まで上昇したことで、 14日には110.70円まで反発。

 ところが、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が、金融引き締めに慎重な姿勢を崩さなかったことで、111円には戻れないまま、19日には109.06円まで下落して7月の安値をつけました。

 感染力の高いコロナ変異株の拡大で世界景気回復が遅れるとの懸念で、マーケットが「コロナオン(コロナ感染拡大による投資家心理悪化)」になったことがドル売りを加速させました。

 2営業日後の21日には110円台へあっさり戻し、さらに26日には110.59円まで上伸しましたが、またも111円手前で失速。

 28日にはFOMC(米連邦公開市場委員会)を前にして、FRBのタカ派転向に備えた動きと中国政府の規制強化による株価下落を嫌気して109.58円まで下落。FOMC後には110.28円まで反発しましたが、FOMCが緩和縮小の時期を明示しなかったことが失望を誘い、7月最後の30日には109.36円まで下落しています。

 ドル/円が今月も定番パターンで動くならば、8月の第1週に「8月の高値」をつけることもありえます。

アメリカの税金は、アメリカ製品を買ってアメリカ人の仕事を増やすために使う

 バイデン大統領は4月、「米国における一世代に一度の投資」と銘打って、大インフラ投資計画を発表しました。1950年代の州間高速道路システムの建設以来、過去70年間で最大規模の計画になります。

 バイデン大統領のインフラ投資計画は、橋や道路の建設といった「オールド・エコノミー」だけではなく、水道管交換や高速ブロードバンドなどの整備や人工知能(AI)など研究開発投資に、防衛関連以外としては過去最大の投資金額を見込んでいます。

 バイデン大統領は「インフラ計画は中国との競争で不可欠」であると強調。インフラ計画には、中国からの部品供給の依存度を下げるために、半導体のサプライチェーン(供給網)強化も盛り込まれています。

 バイデン政権が中国との対立姿勢を明確にしたことは、地政学的にも重要です。両国の緊張関係はトランプ前大統領時代よりも、高まったとも考えられます。

 米上院の超党派議員グループは8月1日、インフラ投資法案を最終合意し、議会に提出しました。投資計画は、当初案から半分以下の1兆ドル規模まで縮小されました。

 それでも十分に巨額ですが、それ以上に民主党と共和党が協力する「超党派」による合意に向けて前進したことに意義がありました。バイデン大統領はこの投資計画を、トランプ前大統領によって分断されたアメリカ政治を修復する象徴としたい考えがあるからです。

 しかし、インフラ投資計画の立法化に向けた道筋には不透明さが残っています。民主党は、議会可決を目指すために「財政調整措置(リコンシリエーション)」を使うことも検討。上院の民主党と野党・共和党の議席数が50ずつで拮抗している上に、この提案について共和党側の支持が得られていないからです。

「財政調整措置」とは、上院の多数派が、優先順位が高いと見なす法案を強引に通過させるための仕組み。米上院では通常の法案審議において長時間の演説などで採決の遅延・阻止を狙う議事妨害(フィリバスター)が認められており、フィリバスター打ち切りを確保するには60票が必要。

 つまり現在50議席の民主党は、少なくとも共和党議員10人を味方にしなければなりませんが、財政調整措置を用いれば単純過半数での採決が可能になる。つまり民主党は50人と議長のハリス副大統領の1票で事足りることになります。

 米国の第1四半期の成長率は、1.9兆ドルの追加経済対策の効果で年率6.4%まで拡大。FRBは、このペースが今年いっぱい続くとみています。

 過去70年間で最大規模となるインフレ投資計画は、米国の景気回復をさらに後押しするとの期待がありますが、支出は約8年間にわたって行われるため、(現金給付のような)即効的な成長効果は期待できないようです。

 バイデン・インフラ投資計画には、財源をどうするのか、という大問題があります。1.9兆ドルの追加経済対策については、 速やかな経済成長を促すことによって財政赤字は減らすことは可能という考えのもと、イエレン財務長官は米国債発行で賄う考えです。

 しかし、さすがにインフラ投資計画については、米債発行だけでは足りず増税は避けて通れない。インフラ投資は、資産の再配分であって、景気刺激策としての即効性はないと指摘される理由です。ただ、超党派の上院議員グループとの合意には法人税増税は盛り込まれていません。

 コロナ対策による政府の債務増加は、米国だけではなく、世界共通の問題となっています。失業給付金やワクチン代(一人4,000円ともいわれる)やそれにかかわる人件費などのコスト、景気刺激策としての「Go To トラベル」などは、最終的に国民が負担するのです。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券が実施した相場アンケート調査によると、個人投資家の25%が8月のユーロ/円は「ユーロ高/円安」に動くと予想しています。ユーロ高見通しは、先月(29%)に比べると4ポイント減りました。
「ユーロ安/円高」予想は19%。先月(16%)に比べると、ユーロ安見通しは3ポイント増えました。残り56%は「動かない(わからない)」でした。

 楽天証券が実施した相場アンケート調査によると、個人投資家の23%が8月の豪ドル/円は「豪ドル高/円安」に動くと予想しています。豪ドル高見通しは、先月(25%)に比べると2ポイント減りました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「豪ドル安/円高」予想は20%。先月(16%)に比べると、豪ドル安見通しは4ポイント増えました。残り57%は「動かない(わからない)」でした。