今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい国(地域)」のうち、「アメリカ」と「中国」と答えたお客様の割合に注目します。

 当該質問は複数回答可で、選択肢は、日本、アメリカ、ユーロ圏、オセアニア、中国、ブラジル、ロシア、インド、東南アジア、中南米(ブラジル除く)、東欧、アフリカ、特になし、の13個です。

図:質問「今後、投資してみたい国(地域)」で、「アメリカ」と「中国」を選択したお客様の割合

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 6月の調査で、「今後、投資をしてみたい国(地域)」で、「アメリカ」と回答した人の割合は72.06%、「中国」と回答した人の割合は14.94%でした。「アメリカ」と「中国」との間が、さらに拡大しました。

 振り返ってみれば、楽天DIの調査が始まって間もない2009年ごろは、上図のとおり、圧倒的に「中国」が優位でした。

 リーマンショック直後で悲観的なムードが強かった「アメリカ」よりも、大規模な景気対策が打ち出された「中国」を、「今後、投資してみたい」と多くの人が、感じたわけです。

 しかし、2010年ごろから、状況が変化します。リーマンショックで負ったダメージを回復すべく、アメリカで大規模な金融緩和が本格化し、これにより経済の回復基調が鮮明になり、アメリカの株価が大きく上昇しました。

 一方、かつて二ケタ成長があたり前だった中国は、緩やかな景気減速期に入りました。このころから、当該質問の回答結果において、「アメリカ」上昇、「中国」低迷が目立ち始めました。

 その後、2016年6月に行われた英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票で、英国国民がEUを離脱することを選択したため、関りが深い主要な先進国で強い不安感が広がり、一時的に「アメリカ」を選択する人が急減しましたが、同年11月の米大統領選挙で異端と言われたトランプ氏が勝利したことをきっかけに、将来への期待が増幅してアメリカの株価が上昇し始め、再び「アメリカ」が選好されるようになりました。

 一方、「中国」の低迷はその後も数年間続きましたが、新型コロナがパンデミック化してから数カ月間、経済規模が大きく、かつ感染者の拡大を抑え込んでいる数少ない主要国として注目が集まり、「中国」を選好する人の割合は上昇しました。

 しかしその上昇も、2021年1月に止まってしまいました。

 上昇が止まった一因に、中国の強みだった強い景気回復基調が損なわれたことが、挙げられます。

 以下は、中国の国家統計局が公表している、景況感を示す経済指標の一つ「PMI」の推移です。50を超えれば景気が回復基調にあるとされますが、2021年年初から、徐々に景気悪化を示す50割れに近づいてきています。

図:中国のPMI(国家統計局版)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 また、今年に入り、中国の香港に対する政治的な圧力が強まったり、中国共産党が100周年を迎えるにあたり、習主席の権力がさらに巨大化する懸念が生じたりしています。

 景況感が悪化する懸念に加え、こうした政治起因の懸念もまた、「今後、投資をしてみたい国(地域)」で「中国」を選択する人の割合が低下する要因とみられます。

 今後も、中国の政治・経済の動向とともに、同質問における「中国」を選択する人の割合の推移に、注目していきたいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2021年6月調査時点 (複数回答可)

投資対象 割合 前回比
国内株式 50.31% △ 0.90%
外国株式 46.33% ▼ 1.00%
投資信託 40.45% ▼ 0.63%
ETF 32.37% △ 0.80%
REIT 14.94% △ 0.52%
国内債券 4.23% △ 0.11%
海外債券 6.72% ▼ 0.98%
FX(外国為替証拠金取引) 7.32% ▼ 0.37%
金やプラチナ地金 15.31% ▼ 2.52%
金先物取引 2.42% △ 0.31%
原油先物取引 1.55% ▼ 0.38%
その他の商品先物 1.90% ▼ 0.00%
特になし 7.54% △ 0.15%
出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2021年6月調査時点 (複数回答可)

国名 割合 前回比
日本 30.79% △ 0.08%
アメリカ 72.06% ▼ 1.00%
ユーロ圏 7.94% ▼ 1.29%
オセアニア 4.18% ▼ 0.45%
中国 14.94% ▼ 2.41%
ブラジル 2.19% ▼ 0.51%
ロシア 1.27% ▼ 0.27%
インド  22.55% ▼ 0.36%
東南アジア 17.19% ▼ 0.61%
中南米(ブラジル除く) 1.70% ▼ 0.26%
東欧 1.47% ▼ 0.49%
アフリカ 4.09% ▼ 0.50%
特になし 6.40% △ 0.36%
出所:楽天DIのデータより筆者作成